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あと三話くらいかなあ…(ジャンプ並みの嘘予告だと思う)。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
随分と急なことに、外部の基地から将軍が視察に訪れることになり、基地はバタバタと慌しい。
表向きの自身の仕事も増えるが、それ以上に得る物も多い。意外なところの警備が手薄になったおかげで、適当に2、3新しい情報を手に入れながらファイは一息つく。
何のための視察であるのか組織の下にまで詳細は回らないが、将軍の後ろ盾が大きな企業だということを考えれば軍と企業の蜜月、というよくある話だろうと思える。
癒着は何も今に始まったことではないし珍しいものでもない。平気を作り、売る側と使う側、という簡単な関係ではなく、金銭だけに留まらない複雑な利害関係が絡み合っている。
視察に訪れる将軍も実家の財力で地位を買ったくちかと思えば、意外なことにその将軍は実力も伴っていての昇進のようだった。無論後ろ盾でもある企業からの影響は否めないだろうが、女性の身で堂々と将軍の椅子に座るのだからそれは並みの軍人ではないだろう。
仕事を抜きにしてもなんだか興味のわく相手だった。
だが、皮肉なことにその将軍の来訪のおかげで、ファイが狙いをつけていた佐官達が皆そちらの対応へと忙しくしている。
どうしたものかと頭の中で予定を組みなおしながら食事を終え、ファイは午後の仕事に戻ろうとしていた。
着任して日の浅いためか、それとも今回の視察内容にファイの部隊は含まれていないのか、ファイに厄介な役目がまわってくることはなかったおかげで他の佐官たちよりは多少時間に余裕がきく。
激務の時は激務であるが、有事でもなければ仕事のこなし方次第では案外スケジュール通りでもある。
通常ならばその余暇を存分に『自分』の仕事に使えるのだが、ターゲットとなりうる存在が捕まらないのでは、と悩んでいた矢先、意外な人物に出会った。
一瞬首を傾げたのは、彼が常のように着崩した姿ではなく、正装に近い軍装をしていたせいだ。胸の褒章、記章の数の多さは嫌でも目立つ。数だけを考えれば佐官に昇格していないのがおかしくらいだ。
軍功華々しいわりに昇進しないのは本人の普段の態度の悪さ、という噂もあながち外れていないのかもしれない。
「あ、黒たんー。ちゃんと服を着ると格好いいねー。いつもそうしてたらいいのにー」
「階級が下の人間を呼ぶのに妙なあだ名をつかう上官がどこにいる」
「だってオレは今休憩中で勤務外だからねえ」
妙な呼び方が気に入らなかったらしい。そう呼んだ方が可愛いのにー、というファイの言葉に噴出したのは彼の後ろに控えていた女性士官だった。
少し笑いが収まると、黒鋼の副官らしい女性士官はファイに軽く非礼を詫びた。黒い肌と黒い髪の理知的な女性だった。黒鋼に一切物怖じをしていないところを見るとそれなりに豪胆な人なのかもしれない。
凛とした姿勢と、醸し出す柔らかさが人に好印象を与える。黒鋼も見習えばいいのに、と思ったが懸命にもそれを口に出すことはない。
「なんでいつもちゃんと軍服をきてないかなあ?」
「こんなもんをじゃらじゃら着けてっと鬱陶しいだろうが」
褒章を「こんなもの」呼ばわりする黒鋼を慌てて女性士官が窘めるが、無論そんなことを聞く黒鋼ではない。
ファイもファイでなるほど、と納得してしまった。表向きの軍功とやらがファイにも多少あるので、二つほど褒章をつけてはいるが、洗濯で軍服を変えるたびに付け替えなければいけないので案外面倒なのだ。
「そりゃあ、多けりゃいいってもんじゃないよねえ。大変だし」
しみじみと頷くファイに女性士官が困ったように曖昧に苦笑した。
接点のない上官にはあまり妙な口出しも出来ない。代わりに黒鋼の正装の理由を教えてくれた。
「将軍との対面にいつもの服装ではいけませんから」
「いちいち人を呼びつけんな」
忌々しそうにちっと舌打ちする黒鋼の様子よりも、ファイはその中身に反応した。
今の言いようだと、黒鋼は将軍のことを直に知っているようだ。否、短い内容から察するに知っている、よりも更に近しい関係のようである。
「黒みーは将軍と知り合いなの?」
ストレートに聞けば、実に嫌そうに「まあな」とだけ答えが返ってきた。
そういえば将軍の所属する基地と黒鋼の出身地は近かったはずだ。それにしても随分とぞんざいな言い様で、副官も窘めながらもある程度許容しているようでもあった。
不思議に思っていると横から女性副官がそっと言葉を添えた。
「将軍は黒鋼の遠縁にあたる方なのですよ」
「成る程」
表向き納得はして見せたが、いくら縁続きだといえ尉官と将軍では地位に差がありすぎる。わざわざ軍内で面会する方が不自然だ。
また、他の基地の将軍が何故急に視察になど訪れたのか。
笑顔の裏側で次々にファイの脳に新たな情報が刻み込まれる。
このカードをどう生かすか、黒鋼の瞳を盗み見ながら、そっと笑った。