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100000hit感謝リクエスト企画第一弾。
神田様リクで「堀鍔で黒鋼に「バイバイ」と言うファイ」でした。
リクエストは原則としていただいた順に消化したいと思います。
ただ、
『自称エロテロリストとしてエロはがっつり書きたい』
のでお時間ください!
リクエスト御題だけで鼻血物の妄想が吹き荒れます。
拍手もありがとうございます。
日々の励みですvv
では下からどうぞ~。
これが最後なのだと言い聞かせた。
既に荷物は用意してある。後は自分だけだ。
そっと笑った。
たくさん、たくさん、好きだと言った。他愛ない冗談もあったし、しぼりだすような本音もあった。
けれども、それらは全て受け取る相手あってのものだ。
聞く人のいない言葉は、たとえどれほど大切なことでも、心がこもっていても、意味を成さない。それだけのことだ。
イタリアに帰る、というファイの言葉を黒鋼は不審には思わなかった。
「とりあえず五日かなあ。オレがいない間寂しくても泣いちゃだめだよー」
「誰が泣くか、このアホ」
茶化す声に返ってくる呆れた声はいつものことだ。
海外に渡るにしては小さい荷物を手に、ファイは黒鋼の部屋の玄関に立つ。この学園の独身用の職員宿舎が破格に広いとはいえ、単身居住用の玄関はそれなりに狭く、二人の距離は近い。
片付けきれなかった食材などを処分を兼ねて持ち込んで、後は出発までの数分の時間を待つだけだ。
腕時計を見ればタクシーを頼んでいた時間が近い。
そろそろか、とファイは小さく息をつく。
黒鋼には知らせていない。けれど、これが最後だと決めていた。
気付かせないように立ち去ることが出来たなら、この縁はそれまでのこと。
自らにそう言い聞かせてファイは笑った。
「バイバイ」
手を振ろうとして、考え直す。
同じ意味でも、こちらの方がもっとふさわしいような気がした。多分間違ってはいない。
「さようなら」
今まで告げたどんな「好き」よりも「愛してる」よりも、切なくて愛しくて、包み隠すことの出来ない言葉だった。
別れたくなくとも、それが然るべきことであるならば仕方がない。
美しい諦めを含んだこの言葉がこんなにも痛くて、愛しくて堪らない。
綺麗に綺麗に笑えた。
そのまま背を向けて、玄関のドアノブに手を伸ばす。
もう何十回と繰り返したようなやり取りだ。
自分の部屋と同じ造りの部屋はそれでも根本から気配が違う。それも、最後だ。
懐かしさと慕わしさを噛み締めながらファイはドアを開こうとした。
寒さにかじかむようにこわばった指に力をこめ、か細く開いた扉の隙間からひやりと匂いの違う空気が流れてくる。
視線がそちらに向いた矢先だった。
ぐ、と全身に思いもよらない方向から引力の負荷がかかる。
当然抗う暇もなく、ファイは後ろに倒れこんだ。
黒鋼に抱きこまれているのだと理解したのは、鼻孔に彼の香りを吸い込んでからだった。
「な…」
何、とその二文字さえ震える唇は告げられない。
混乱するままのファイの耳朶を、低い声が震わせた。
「何が『さよなら』だ。阿呆が」
唸るような低音に滲むのは紛れもなく苛立ちで、こんな時だというのに、ファイは黒鋼の声だけで全身を疼痛のように甘く痺れさせた。
「…だって…」
好きになったのは、ファイだ。けれど、それと同じだけを黒鋼に求めるのはただの自分勝手だと知っている。
知っているけれど。
それでも諦められないくらい、とっくにもう、途方も無いほどに愛してしまっていた。
「だって君は…!」
諦められないから。捨てることも出来ない思いで、けれどいつかそのつれなさを恨むことになるかもしれない自分が嫌だった。
それならばいっそのこと好きでいるままに離れてしまえば、と思ったのだ。
愚かな考えだと知っていても。
ファイは泣きたくなって肩を震わせる。多分黒鋼は最初から全て見透かしていたのだ。それならば黙って立ち去らせてくれれば良かったのに。
のろのろと黒鋼の腕を振りほどこうと手を伸ばすが、逆にファイの体を捕らえた腕の力が強くなる。離して欲しい、と思う一方で、このまま抱きしめていて欲しいと願う。相反する感情がファイの中でせめぎあって、苦しい。
こんな気持ち、きっと黒鋼は知らない。
子どもじみた八つ当たりのような勢いで抗うファイを、黒鋼は一層きつく抱きすくめた。
「俺の気持ちまで、お前が勝手に決めてんじゃねえ」
絞り出すようにして吐き出された言葉を、ファイはただ呆然と聞いた。
耳に飛び込んだ言葉の意味が上手く理解できない。
脳が理解することを投げ出してしまったように、ファイは何も考えられないでいた。
気がついた時には一方的な抱擁から解放され、正面から黒鋼に向き合っていた。
信じられないくらい間近に迫る赤い瞳を見据えながら、言うつもりの無かった言葉がぽろりと唇から転がり落ちる。
「君が…好きなんだ」
言葉にすれば唐突に感情が溢れ出て、止まらなくなった。涙腺が壊れてしまったように瞳から雫が零れ落ちるのを止められない。
黒鋼の温かな指が頬をそっと撫で、ファイの涙がそれを濡らす。
「君の、ことが」
好きなんだ。
ファイの告白に黒鋼が苦笑するように唇を歪ませた。
「ああ」
返事になっているのかいないのか分からなくて、ずるい、と思ったのだけれど。唇が触れ合わされ、ファイは瞳を閉じた。
触れ合わされるだけのキスの合間に「俺もだ」と答えが返ってきて、それがどうしようもなく嬉しくてファイはまた泣いた。
タクシーを待たせてしまっていることに気がついたけれど、今はキスが気持ちよくて「もうしばらくだけ」と心の中で言い訳をしてファイは黒鋼の背中を抱きしめた。
今度は「さよなら」ではなく「いってきます」と言ってこの部屋を出よう。そして五日後には「ただいま」と言って、お帰りのキスをねだるのだ。