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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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日本国永住特殊設定です。
第三者視点なので黒ファイ描写少な目かもしれません(しょんぼり)

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞー。








諏倭領主の館を急いて歩く男の姿があった。
旧領諏倭の頃から館に仕えている古参の臣である。
兵や忍のように卓抜した戦闘技術を持っているわけではないが、諏倭の復興に尽力した功績には領主の信頼も篤い。
鬢に白いものが混じり始めた老臣は、急ぎ足で歩みを進めている。体よりも気持ちの方がよほど急いていると見えて、時折小走りになりそうな自分に気づいては歩調を整えている。
皺交じりの顔には僅かに苛立ちが混じっていた。
かつて魔物の襲撃に遭ったころから諏倭に身命を注ぎ、信を寄せられた彼であっても侭ならないことはある。
その一つが領主の婚姻であった。

彼は領主に、隣接する領土の娘との婚姻を強く推していた。
土地の平定に諏倭一国だけではまだ力の及ばぬことも多い。開墾や農作業、流通。隣り合った領土が婚姻によって一国にまとまることで互いの利になることも多いと考えた。
良縁だと領主に薦める者は彼以外にも多くいた。けれどそれは領主の口からはっきりと拒絶される。
諏倭の領主は異国生まれの巫女を娶るつもりなのだ。
今の領主の父にあたる先代の領主もまた、巫女を妻としていた。領土を治める領主と領土の結界を維持する役目の巫女が夫婦になるのは珍しいことではない。諏倭に限らず、魔物に苛まれる日本国ではよくある話だ。
けれど、先代と当代の領主とでは大きく巫女の性質が違う。
先代の巫女はそもそもこの地に生まれ育ち、領主の妻となったのだ。
いくら魔力が強かろうと、異国で生まれ育ち、この諏倭に流れ着いたばかりの者を容易く信じる気にはなれなかった。
既に領主と巫女が契りを交わしていることは周知の事実だが、それならば出自の定かでない巫女を側室として、妻には隣の領土から領主の娘を迎え入れればよいではないか、と思ったのだ。
強大な魔力を持つ巫女を手放したくないのならば何も妻にせずとも他に方策はあるはずだ。
もう一度主に諌言を、と逸る気持ちで領主と巫女がいる奥の部屋へと向かった。


金色の髪の巫女の姿は遠目にも目立つ。きらきらと月光で染め上げたような髪と深い湖を映したような青い瞳の巫女を天人だと信じる民も少なくはない。
風に金糸をゆらゆらと遊ばせて、巫女は領主の部屋の縁側に腰掛けていた。
領主とともにいるのならば好都合。この際に領主にも巫女本人にもはっきりと臣下としての自分の言い分を聞かせるつもりでいた。
ずかずかといつもよりも荒い足音になるのは否めない。せめても最低限の礼儀として少しばかり乱れた袷を直して顔を上げるとはたりと巫女と視線が合った。
いつから気づかれていたのかは知らないが、これから当人にとってあまり良い内容ではない話を進めようとしていた男は多少なりとも気まずく思う。
そんな男の姿をどう思ったのか知らないが、巫女は視線を合わせたまま、自分の唇の前に人差し指を立てた。
「静かに」という仕種を不思議に思った男だが、数歩歩みを進めてその理由が分かった。
男のいた位置からは植込みに隠れ死角になっていたのだが、巫女の膝を枕にして領主その人が眠っていた。
白鷺城に引き取られてからは日本国随一の忍として名を馳せた領主である。殺気までいかずとも人の気配に気がつかぬはずが無い。
魔物のみならず不意の襲撃者にも数多いる兵や忍の誰よりも早く気づく。その人が今、数瞬の間に間合いを詰められるような距離に他人がいるにも関わらず無防備に眠りに落ちている。
信じられない気持ちで呆気に取られた男に巫女がもう一度人差し指を唇の前に立てて微笑んだ。
白い指先がそのまま、眠る領主の額や頬を優しく撫でる。
穏やかな空間だった。
眠る領主に落とされた巫女の視線は慈しみと愛しさに溢れて、本当に心の底から彼を愛しているのだと何よりも雄弁に知らしめていた。
戦いに身を置く者として、けして油断や怯懦を許さない領主その人が、本当に信頼して己の眠りを巫女に委ねているのだとはっきりと分かった。


老臣は何も言えず、引き返さざるをえなかった。
巫女に黙って頭を下げ、今来たばかりの回廊を戻る。
唐突に、泣きたくなった。それは悔しさでもない、諦めでもない。
懐かしい、愛しさに満ちた過去が蘇る。
互いを思い合い慈しみ合ったかつての領主と巫女の姿が、涙で熱くなった瞼に浮かんだ。
二人の間にもうけられた小さな若君はそんな両親の姿を見て育ち、今、同じように思う相手を見つけたのだ。
先だって、巫女以外の女はいらない、と領主ははっきりと告げた。
その言葉以上の姿を、今日見せられた。

何も言えないではないか。
失ったはずの過去が、新しい、けれど確かに繋がり続け今ここにある。
懐かしい、愛しい。
全てこの地にあって、ずっとこの地にあって。これからも芽吹き続けていくのだと思った。
領主に膝を許し微笑む巫女の姿が遠い過去と重なる。
眦の熱さはずっと無くならないでいた。

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