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十話で終らせたいのですが話数に対してあまりにも展開が進んでいない今日この頃。
五話で終らせたいものが三倍近くなってみたりする自分の構成力の無さに涙です。
プリーズ文章力。
自分で磨かなければ身につきませんね、そうですね。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞー。
緩やかな勾配の中、長く細い道を子どもらの足音が響く。
かさかさと草を踏み分け、まろぶように走っていくと急にぱっと視界が開けた。
ぽっかりと、そこだけまるで別の空間のように日の光が落ち、背の高い竹がさわさわと葉擦れの音を降らせる。
小さいがきれいに手入れのされた小屋の脇に佇む人の姿を見て、子どもたちが弾んだ声を上げた。
「露草様!」
くるりとその人が振り向く。
日除けに被った布のせいで顔は半分ほど隠されてしまっているけれど、優しく微笑んでいるのがはっきりと分かった。
「いらっしゃい」
手に持った山葡萄の蔓で編んだ籠には淡い緑の葉が摘まれている。
今日は皆で薬草摘みだろうか、と子どもたちはその人の下へと駆け寄った。
誰ともなしに呼び出した「露草」というのは染物につかう植物の名前だ。染め上がりの美しい青色が、この流れ者の美しい瞳の色を思わせる。
あまり自分から里に下りてくることはなかったが、僅かなやり取りの間にも彼がこのような境遇には相応しくない教養と素性であるのは窺い知れた。
出自さえも定かではない流れ者に「様」を付けるのも奇妙なことだが、彼の豊富な知識と珍しい技術、それらを惜しげもなく与える姿に皆が自然と敬意を払うようになるのにそう時間はかからなかった。
無論子どもたちにはそんなことは関係ない。漠然と普通の大人とは少し違う、と思ってはいるけれど、彼らに大事なのは嫌な顔ひとつ見せずに遊び相手になってくれる、ということの方なのだ。
川で魚を捕まえたり、木の実を拾ったり。
そんな中で皆が一番好きなのは、ひとしきり体を動かした後に団子を齧りながら、露草を囲んで話を聞かせてもらうことだった。
異国の不思議な話は飽きることが無く、一つの話が終ると次を、次を、とねだる。
金の髪のお姫様の幽霊、願いを叶える月のお城、人間が大好きな神様たち。
瞳をキラキラさせて食い入るように見つめる子どもたちに、露草は不思議な話をいくつもいくつも語ってくれた。
けれど、ひとつだけ、言いよどんだ話がある。
お姫様の失くした記憶を探しに行く少年の話だ。
次を、とねだった子どもの声に語られたそのお話は、皆が一番好きな話だった。
記憶を失くしたお姫様とお姫様のことが大好きな少年は、乱暴だけれど心根の優しい戦士と、故郷を失った魔法使い、そして願いを叶える魔女から預けられた不思議な生き物と一緒に旅をする。
やがて長い長い旅の終わりに、お姫様と少年は無事に元の世界に帰り、幸せな結末を迎えるのだ。
「砂に囲まれたお姫様の国で、二人はそれからずっと離れることなく過ごしたんだよ」
「白いふわふわの子は?」
「可愛い不思議な生き物も、自分の生まれたお店にちゃんと帰ったよ。そこには一番大好きな相手がいるんだからね。お店の主人は魔女さんじゃなくなっていたけれど、新しい店主もその子の大好きな人だったから、それからとてもとても幸せに暮らしたよ」
にこにこと優しく笑う露草に、一番小さな女の子が重ねて聞いた。
「じゃあ、じゃあ、乱暴者の戦士はどうしたの?魔法使いは?」
きっと皆幸せになれたのだ、と信じて疑わない幼子の目の前で、露草の表情がくしゃりと歪む。
困ったように、笑った顔がなんだかとてもとても寂しげで、胸が痛くなるような笑顔だった。
「ごめんねぇ。オレ、魔法使いがどうなったのか、お話をちゃんと聞けなかったんだ」
露草の言葉に子どもたちは不満そうに声を上げた。お話の最後が気になって、子どもの頭からはすぐに露草の垣間見せた表情は消える。
ごめんごめん、と謝りながら、露草は子どもたちを宥めた。
「戦士の方はちゃんと自分の国に帰ったよ。主のところに戻って、それから…」
「それから?」
「…優しいお嫁さんと結婚して、可愛い子どもと一緒に暮らしてる」
皆、幸せになったんだよ。
魔法使いがどうなったのか分からないことに不満をもらしていた子どもたちはそれで納得したようだった。
きっとお姫様た少年が幸せなように、皆幸せになったのだと晴れやかな笑顔になる。
まるで自分に言い聞かせるように、「幸せになったんだよ」と露草が繰り返したことを、子どもたちは最後まで気がつかなかった。