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では下からどうぞ~。
ばたばたと慌しい音が耳に入ったかと思うと、悲鳴のように自分の名前を呼ぶ声がし、黒鋼が思わず顔を上げた。
「どうした」
「黒鋼っ!?」
敵襲ではない。殺気は微塵も感じられず、またそれが読み取れないほど自分の能力が落ちているわけではない。
けれど、この取り乱しようはただ事ではなかった。城の奥向きを取り仕切る腰元達は行儀作法に関しては殊更にうるさい。ありえない事態だ。
黒鋼を見つけた女官が慌てて手招きを寄越す。咄嗟には言葉も出ないほど慌てているその姿を訝しんだ。
知世に何かあったのか、と思うよりも先に、切れ切れの声が耳に届いた。
「あの双子が…!」
慌てて襖を開けると、そこは大惨事だった。
「なっ…!」
知世と蘇摩が弱りきった表情で、言葉を無くす黒鋼を見つめる。
姫君の小さな唇から幽かな溜息が漏らされ、緩く首が横に振られた。しゃら、と簪の飾りが場違いに繊細な音をたてる。
三人の目の前では――。
墨汁を頭からかぶったファイとユゥイが申し訳なさそうにちょこんと正座していた。
『みっともない髪の色』
双子はそう女官が陰口を叩くのうっかり聞いてしまったらしい。
黒鋼に迷惑をかけてはいけない、みっともない髪の子どもを連れているだなんて思わせてはいけないのだ、と髪を黒く染めようとしたらしい。
事情が事情なだけに、怒るに怒れず黒鋼はぐったりと脱力した。
「…とりあえず、墨おとすぞ」
「ごめんなさい…」
「ごめんなさい…」
自分たちのしたことが却って迷惑をかけたのだと、双子は情けなさそうな顔で小さく謝った。
どうしたら、この二人にそんな風に気を回すことが杞憂なのだと教えてやれるだろうか、と黒鋼は思う。
最近考えるのはそんなことばかりだ。