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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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春望の続きです。

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拍手ありがとうございます。

では下からどうぞー。







彼が幸せであるならば、それでいいのだと思っていた。
それでも、黒鋼の傍らに寄り添う女性の姿に傷つき、嫉妬し、嘆いた。幸せそうに過ごす姿が、悲しくて悲しくてならなかった。
おそらくは自分で思っていた以上に衝撃を受けていたのだろう。自覚しないそれは長く尾を引き、深く根ざした。

泣きそうに顔を歪める子どもに、どうすることも出来ずファイは喘ぐように唇を震わせた。
「泣かないで…」
ようやく振り絞った声は、見っともないほどに弱弱しくて、とても説得力などありはしない。
子どもは一層俯いてしまった。淡い色の髪に表情は隠され、旋毛しか見えない。
こんな小さな子を傷つけてしまったことにファイも酷くうろたえてどうしたものかと困惑する。
寝たままでは手を伸ばして頭を撫でてやりたくても、届かないような微妙な距離だった。
ゆっくりと身を起そうとするのにも体がついていかなくて、結局のろのろとした動作にしかならない。
ようやく上半身を起こした時には僅かに息があがっていた。正確な時間は分からなかったが、体を意のままに動かすことを忘れてしまうほどには長く眠っていたのだろう。
少しだけ前に屈んで、子どもの柔らかな髪を撫でた。
「ごめんね…。でも、違うんだよ」
黙ったまま、頭を撫でるファイの手を子どもは受け入れている。ふわふわと細い髪の毛をゆっくりと撫でながら、ファイは小さく言い聞かせた。
「君が泣くようなことは、ないんだよ」
まるで自分自身に言い聞かせるような言葉だった。

黒鋼の待ち人、とあの女性はファイのことを呼んだ。
待っていたのかもしれない。
けれど、それは。きっとこんな風に誰かを泣かせたり、傷つけたりするような感情で待っていたのではないことだけは確かだ。
今だって、黒鋼のことを考えれば、息が詰まりそうになるくらいに切ない。離れてしまうことを考えて、寂しさに押し潰されてしまいそうな気さえする。
それでも、決めたのだ。
こんな痛みよりも、大切なものを。

昔、黒鋼はファイのことを嘘つきだと言った。今となってはもう懐かしい旅の道程のことだ。
それならば、もう一度嘘をついたとしても今更な話だろう。
もう一度、嘘をつく。自分自身に、嘘をつく。
「オレには待っている人も、帰る場所もないよ。ここには、ちょっと知っている人がいたから顔を覗かせに来ただけ。…だから君が泣くことはないし、何も気にすることはないんだ」
ファイの言葉に弾かれたように子どもが顔を上げる。けれど、そこに浮かんでいたのは喜色ではない。戸惑いでもない。
嘘だ、と言葉にはしなくてもその全身が叫んでいた。
泣いてはいなかったけれど、ファイを真っ向から見つめる瞳は真っ赤になっていて。そこに映るファイ自身の顔の方がよほど泣きそうな顔をしていることに、ようやく気がつく。

泣いてしまえたら、良かったのに。そうは出来ない。
「君が気にすることなんて、何も無いんだよ」
無理矢理に笑った顔は、やはり泣き出しそうだった。


納得したのか、していないのか。定かではないにせよ、あれから子どもはすっかりと押し黙ってしまった。
少しだけ風が冷えてきて、ファイの肌から熱を奪う。
ひんやりと心地よい風に瞳を閉じると、耳の中に歌うような葉擦れの音がさわさわと忍び込んでくる。
その音に被さるようにして、人の足音が幾つか響いてきた。三人、歩調の異なる音を聞き分けファイは瞳を閉ざしたままでいることを決めた。
衣擦れに足音がほとんど掻き消されそうなのが知世姫。荒々しくはないが歩幅の大きい歩みと足の運びが訓練された者独特の正確な歩調。これは黒鋼。もう一人はきちんと躾けられた品の良い足音。気配の消し方を心得ていないので侍女か医師だろう。
他の人目がある中で黒鋼と向き合うだけの勇気はいまだ無い。
寝た振りを続けてしまおうと思ったが、自分で思っていた以上に消耗していた体はすぐに柔らかな眠りの気配に包まれる。それでも完全に夢路へと取り込まれたわけではない。
ぼんやりと意識の端で足音が近づくのと、話し声が大きくなるのを感じ取っていた。
足音は部屋の前で止まる。襖だか障子の開く音がしたが、そこから先へと踏み込んでくる気配はなかった。しばらく密やかな話し声が続く。
黒鋼が声を荒げかけるのを、知世がやんわりと止めるのが聞こえた。
ぼんやりとした夢現でも、もう少し声を聞いていたいと思ったのだが、二言三言、知世に何か言われたのか黒鋼は口を噤んだようだった。
ひそひそと内容の分からぬ話し声が続き、しばらく言葉が途切れた後、黒鋼と知世が来た道を引き返していくのが分かった。
番をしていた子どもに声をかけ、子どもも二人の後を追って部屋を退出する。
途端に静かになった部屋に、ファイの意識は本格的に眠りに入るべきか覚醒すべきかを迷った。
「眠っていらっしゃいますか?」
そう声をかけられたので、ゆっくりと瞳を開く。
いつの間に時間が経っていたものか、日が随分と色を変えていた。

声の方へと視線を向ける。
聞きなれぬ声だったが、顔を見て侍女でないのは分かった。何故彼女がここにいるのか、と思う。
いつぞやとは立場が逆だ。
あの時はファイが容態を看る立場で、彼女は布団に横たわっていたのだから。


 

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