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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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日本国永住設定、長編その二。

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では下からどうぞ。








恐ろしくはありませんか?と聞かれた。
何が、何を、と問い返そうとして、それが黒鋼のことだと気づく。

日本国の文字の読み書きが一通り出来るようになったファイに、姫巫女は城の書庫への入室の自由を許してくれた。
最初は貸本や物語や伝承を書き写した草子を読んでいたのだが、じきに読むことだけならば不自由はなくなった。
ファイのその飲み込みの早さをどこからか聞きつけた知世が、言葉の上達や日本国の文化の理解に役立てば、と特別に取り計らってくれたのだ。
おかげで黒鋼の登城に合わせて足しげく通ううちに、書庫の担当をする人間とも随分親しくなった。
責任者らしき白髪頭の老人のほかに若い者も何人かいて、姫の客人だという扱いのファイはそれなりに丁重に扱われた。
髪の色と瞳の色の奇異さに腫れ物でも触るような態度の者もいたけれど、親しく声をかけてくれる相手もいたし、自分の知らなかった世界を知る楽しさの前にそれはたいしたことではない。
そうしていつものように一冊の蔵書を手に取り、その文字を追い始めたファイに、書庫の人間が尋ねてきたのだ。

「恐ろしいって?黒鋼のことですか?」
確かにあのしかめ面は誤解されやすいかもしれない。今度出来るだけ直すように言おう。そう考えるファイの横でその人は慌てて首を振った。
「す、すみません!あの、あの…」
線の細い、まだ年若い青年だった。見るからに文人肌であろう彼のような人間からすれば、武人であり、侵入者や魔物の返り血を浴びて当然のような顔をしている黒鋼のような人間は恐ろしいものなのかもしれない。
それでも、その恐ろしい男と一緒に暮らしているファイに気遣ってか、青年は一所懸命に言葉を選んでいるようだった。
ファイは文机の上に置かれた書物を閉じ、相手の言葉を待つ。
そのままでは体を冷やしてしまう板敷きの床には、ファイのような閲覧者や仕事をする人間のために四畳半ほど畳が敷かれている。その座布団の上に足を崩して座り、じっと見つめるファイから青年はそっと視線を外した。
「黒鋼、という忍は…平気で…笑いながら人の命を奪う男です。月読様の御前にも、返り血を浴びたままの姿で現れる…不敬で、凶暴なのだと」
随分やんちゃをしてたんだなあ、とファイは胸の内で苦笑した。
思えば、旅を始めたばかりのころの黒鋼は何かにイラつく様に刺々しかった。舞台の幕が上がる前から、何もかもを知らされていた自分にはそれが滑稽にも映ったし、未来を疑わない彼の姿が羨ましくもあったのかもしれない。全ては今にして思えば、ということであるが。
「片腕を無くしてから、多少は大人しくなったとは聞いています。けれど、また粗暴な本性が現れないとは限りません。
だから…貴方が一緒に暮らしているのだと聞いて、恐ろしくはないのだろうかと」
そう言って真剣な眼差しを向けてくる青年の瞳は気遣わしげで、ファイは曖昧に笑うほかない。
何より、彼の瞳の中に彼自身ですら今は知りようのない感情の兆しを見て取り、本人が気づかぬうちにそっとそれを消さなければいけないと思った。
「怖かったですよ」
昔はね、と穏やかに話すファイに青年は知らず身を乗り出した。

「けれど、オレは黒鋼がいたから変われたんです」
あの旅の中、抱えていたのは誰も彼もが身勝手な願いだった。
小狼も。サクラも。
願ったのは正義や未来や秩序ではなく、浅ましいほどに、醜くいほどに、自分の願いで。
だからこそ。
何よりも大切だった。

その中で変わっていくものが、変わらざるをえなかったものが、今になってこんなにも大事なものだと気づくことが出来る。
「だから今はちっとも怖くないです」
懐かしむ目をしたファイの表情は愛おしいものを見つめる顔で、青年は声をかけることを数瞬躊躇う。
「ここで…暮らしていける恩義を返さなければいけないと思っているからではないのですか?」
「恩なんていっぱい感じてますよー。もう数え切れないし、返しきれないし。でも黒様はそんなつもり全然ないんですよー、困っちゃうことに」
ファイの唇がふわりと微笑んだ。いつもの笑みとは違う、もっと柔らかな微笑だった。
「返しきれなくて、どうしようと思ったら、『好きにしろ』なんていうし」
故国を失って、帰る先も進む先も無いファイの手を強引に引っ張っておいて、挙句に「お前のしたいようにしろ」と言われた時はいっそ呆れかえった。
けれど、いつだってあの旅を思い返したときに辿りつくのは、強く握られた彼の手だった。

優しい人なんです。
そう言ったファイを呆けたように青年は見つめていた。


 

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