忍者ブログ
二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
[628]  [627]  [626]  [625]  [624]  [623]  [622]  [621]  [620]  [619]  [618
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

黒双子の続きです。
次で終わり。

ところで日本国やパラレル物だと普段では使わない漢字を結構つかいます。
分かりづらくて申し訳ないのですが、前回使った二人の源氏名とか、この話のタイトルとか。

「眇(すがめ)」は見ての通り目が少ないということで、片目、という意味です。
「梔子(くちなし)」は花の名前で薄い黄色をさします。
色以外では片割れが「目が無い」という意味なのでこちらは「梔子=口無し」で合わせて。
ところで眇には「全く的外れなものの見方」という意味もあるのですが、同じく片目という意味の隻眼という言葉には「卓越した見識の持ち主」という意味があります。どっちやねん。
後者は北欧神話のオーディンを彷彿とさせるなあと思ったり。

着物の色は出来るだけ調べて書いているのですが、ふと気がついたことが。
私はファイに着せる着物で白色の衣によく「濃色」の帯やら羽織を合わせるのですが
これ、普通の人って「のうしょく」って読むものではないでしょうか…。
イメージすると黒とか茶色とかの。
書いてる本人は平安オタクなので、「こきいろ」で「濃い紫色」のつもりでした…。
うん、「濃色」ってぽんと出して「こきいろ=紫」って読んでくれてそうな人は確実に二人いる、うん。

…。
…。
日本語って不思議!(逃げた)
気になる人以外にはどうでもいい話ですみません。
当然「薄色(うすいろ)」は薄い紫です。
日本国小話で黒鋼が赤色をずらずらと並べてたりもしますが、あの中の「長春」は「オールドローズ」を訳した色名なので、実は参考にする時代としてはおかしかったり…。
誰かに突っ込まれる前に自分で突っ込んでみた!
一応、利休鼠とか分かりやすい固有名詞の入っている色名は避けてます。


では下からどうぞ。







階下に下りるとユゥイはまだ起きて書き物をしていた。
飾り気のない白練の着物に茶の帯。藍色の上着を羽織って静かに椅子に腰掛けている。
帳面につづられている細かな文字は黒鋼から与えられる生活の手当てを几帳面に記録しているのだった。
最初の頃は求められるでなく勝手に二人に生活に必要な以上の金銭をつぎ込むほかに、適当な着物や装飾品を買い与えていたのだが、かえって二人とも困ったように首を横に振るだけだった。
こんなにしても自分たちでは持て余してしまうだけだと。そういって生活に必要と思われるだけを月ごとに纏めて渡している。それだって並外れに法外な額には違いなかったのだけれど。
驚いたことに、双子は読み書きに留まらずかなり高度な算術や知識に精通していた。日常会話程度の語学力ならば黒鋼を優に凌ぐ。
貧困のためにろくな教育を受ける機会もなく売り飛ばされる遊女や娼婦の多くとは明らかに出自が違う。
だが、今更考えても詮の無いことだとも同時に考える。
何故、と興味が湧かないわけではない。けれど、おそらくはファイもユゥイも、理由を語ることはすまい。
過去にのみ取りすがって生きるほどには愚かでもなく、そんな二人が唯一拘泥しているのが互いなのだから。
「体を冷やすぞ」
不意に声をかける黒鋼にも動じた風もなくユゥイは振り返ると微笑んだ。
つい先ほどまで自身の双子の兄と睦み合っていたであろう男を気にする素振りは全くない。ごく自然に黒鋼の姿を見止め、ファイの機嫌は直ったか、と問うてくる。
どちらが兄やら分からないと苦笑した。
黒鋼が細い腰に手を回し抱き寄せるままに、ユゥイは素直に身を預ける。
少し考えてから肩に頭を預けてくるのが少しだけ甘えているようにも見えた。
うっとりと夢見るように薄く細められた瞳の蒼と義眼の青。
手も金も尽くせる限り尽くし、望める限りに精巧な義眼を得ても、本物の瞳には遠く及ばない。
口に出すことはしないがそれを惜しむ黒鋼に、義眼を与えられたユゥイは嬉しそうに笑った。
命はファイが、瞳は黒鋼がくれた、と。

けして多くを語ることはなかったが、双子は時々思い出したかのように寝物語に自分たちの過去を語ることがあった。
ユゥイの瞳は客の暴力からファイを庇って失ったこと。
瞳を失い生死も危ういユゥイの治療費のために、ファイが昼も夜もなく客を取り続けたこと。
相槌を打つでもない黒鋼の顔を見つめながら、二人は口を開いた。
そうして、その日話すことがなくなって黙り込んでしまうまで、じっと黒鋼の傍に寄り添うのだ。
まるで何かを恐れるように。

何も言わない唇を啄ばむように触れ合わせる。
薄い色の唇は口付けを拒むことなく受け入れる。どこまでも従順だったけれど、そこから先へ進もうと意図していた手はやんわりと窘めるように遮られた。
「疲れてるでしょう?」
暗に長の無沙汰を責めているようにも、先にファイと寝たことを揶揄しているようにも取れるが、静かな瞳を見れば単純に黒鋼の体を心配しているのだと知れた。
ユゥイとファイ、二人の住む邸宅に訪れるのはほぼ週に一度程度だ。それが仕事に忙殺され、ひと月以上顔すら見せないとなると恨み言半分、心配が半分だろう。
慰撫するように黒鋼の頬を撫でるユゥイの表情は少し翳っている。
躊躇うように瞳を瞬かせて、黒鋼の顔を仰ぎ見るユゥイの唇が綻んだ。
「また、断ったの…?」
悪戯を咎められた子どものように黒鋼の体がぎくりと固まる。
困ったように微笑みながら、ユゥイは黒鋼の頬を撫でた。
「お見合いの話、相手は元華族のお嬢様だったんでしょう。
秘書さんがねえ、困ってたよ」
途端に眉間の皺が深くなった黒鋼に、ユゥイは秘書さんを怒っちゃ駄目だよ、と優しく諭す。
秘書が自分の会社の長でもある黒鋼の縁談にしきりと気をもむのは仕方のないことなのだから。
地位や財産のある姻戚からの支援や人脈というのは強力な切り札にもなる。それを手持ちの札とすることの利を分からない黒鋼ではなかった。
「…所詮没落した家だ。貴族連中が金欲しさと家名大事さに、俺みたいな成り上がり者なら娘と名家の名前をくれてやるとでも言えば喜んで尻尾振ると思ったんだろうよ」
馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てる黒鋼の眉間には深い皺が刻まれ、ありありと不快な様子が見て取れる。けれど、それに今更怖気づくユゥイでもない。
「ねえ、オレとファイのことは気にしなくていいんだよ?
黒鋼には仕事や責任があって、そのためには頼りになる閨閥を作っておくのはけして悪いことじゃないんだから。
お仕事でも内向きのことでもやっぱり奥様がいた方が信頼されることもあるし…」
ユゥイの言っていることは実に正論だった。正しすぎるくらいに正しい主張。
だが、黒鋼にはそれを受け入れることは出来ない。

無欲と何も望んでいない、というのは違う。
時折それがたまらなく歯がゆい。
歯の浮くような世辞などは柄でもない。金で心まで買ったつもりもない。
ただ、二人の心のほんの一片でもいいから、自分に預けて欲しいと願う。
金も力も手に入れた男という立場からすれば、それはさぞやちっぽけな望みのように思えるだろうが、黒鋼本人にとってはそれは途方も無い望みだった。
たとえ何度、体を抱いても。閉じ込めるように家屋敷を与えても。高価な品々で飾り立てても。彼らは何も変わらず心ばかりが手に入らない。
黙りこくった黒鋼をどう思ったのかユゥイが不安げに伺い見る。
「怒った?」
頼りない声が存外に子どもじみている。
応えない黒鋼の背に、ユゥイがおそるおそる手を回した。
「…やっぱり、しようか」
いささかおもねるような口調になってしまっているのは、黒鋼が機嫌を損ねたとでも考えたせいか。
そうではないと僅かばかりの苦笑をかみ殺し、黒鋼はユゥイの顔を埋める。
花の移り香がかすかに鼻をくすぐった。
「嫌か?」
唐突にそんなことを聞かれてユゥイが何のことか分からずにきょとりと目を瞬かせる。
「こんな暮らしは嫌か?」
聞きながら分かっているのだ。
男に囲われる。望んでそんな生き方をしたがる者はいない。
言葉を無くすユゥイの気配が伝わった。馬鹿なことを聞いたものだと苦いものがこみ上げるのを堪え、黒鋼はひっそりと息を吐いた。
困らせるだけの問いだ。
「…この家は昔、両親と暮らした家だった」
思いもよらない黒鋼の言葉にユゥイがはっと顔を上げる。
「まだどちらも生きていた頃だから随分前になるがな」
思い出は優しく、そうしてそれを思い出すのはひどく苦々しいものを胸に過ぎらせる。幸せだったからこそ、それが失われているという事実に。
黒鋼がファイとユゥイの二人を住まわせているこの屋敷は、元々別の場所に建てられていたものをそっくりと今のこの場所に移させたのだった。
昔イタリア人建築家が日本建築に魅了され、自分が学んだ技術と和の様式美を心血注いで融合させたというこの家に少女のようにはしゃいだ母親の姿を思い出す。
自分では弾けないピアノの鍵盤を、宝物でも愛でるように嬉しそうに指で一つ一つ弾いていた遠い日の笑顔。
寄り添うように温かい眼を向けていたのは父親で、そんな二人と暮らす日々が幼い黒鋼はただ嬉しかった。
そんな温かな記憶さえも裏切るように、両親から教わったことさえも汚い手段に変えて今の地位を築いた黒鋼の悔恨をまるで見透かしていたかのごとく、ある日売りに出されていたこの家を見つけた。
思いのよすがであれば良かったこの家に、娼館から連れ出した双子を住まわせようと思ったのは何故だったのか。
その答えを口に出すのは双子には重荷になるだろうと今まで告げたことは無かった。
ただ、本宅ではなく二人をここに住まわせて新しい表情を見るたびに、無くした過去の隙間を埋められるような気がしたのだ。
庭の薔薇の木が蕾を咲かせそうだとファイが笑う。グランドピアノにユゥイが眼を見張り、滅多にない我侭に楽譜が欲しいと強請る。
そこに暮らす人間も時の移ろいもけして同じではあり得ないのに、黒鋼はたしかに幸福だったのだ。
饒舌ではないが、黒鋼の口から漏らされる思い出にユゥイはじっと耳を傾けた。
蒼と青が真摯な眼差しで男の顔を仰ぎ見る。
薄い唇が綻んだ。
「ありがとう」
小さくそう呟いて、ユゥイは触れ合わせるだけの口付けを重ねた。
「オレたちを…君の優しい記憶の中に置いてくれてありがとう」
抱き合う腕に力が篭る。
「嫌じゃないよ。だってここには…ファイがいて、君がいるから」
偽りなど無いのだと証明するようにユゥイは黒鋼お瞳から視線を逸らさない。
もう一度触れ合わせた唇は今度はもっと深くまで重ねられ、互いの肌に熱を灯した。


日が昇ったとは言え、朝の空気は夜とはまた違い、張りつめたように冷たい。
もう少し体を休めないでいいのかと引き止める愛人に、今度も来れなかったらお前たちに見限られそうだからな、と黒鋼は応えて家を後にする。
「黒様」
ユゥイの呼びかけに応えて振り向くと、彼は藍色の羽織を肩にかけ車に乗り込む黒鋼を見送っている。
戸惑うようにユゥイの瞳が揺れ、それを誤魔化すように微笑んだ。
「待ってる…ファイと二人で、待ってるよ」
小さく手を振り微笑む顔が、何故だか泣き出しそうに見えた。


黒鋼の乗った車が遠ざかるのを見届けると、ユゥイは扉を閉ざし、そこに身を持たせかけた。
けして多くは望まないと決めていたはずだった。けれど。昨夜の黒鋼の告白が泣きたいくらいに嬉しかった。
幸せで、このまま死んでしまうのではないかと思うくらいに嬉しかったから。
だから、これ以上傍にはいられない。
もう耐えられそうにはなかった。
汚れたこの身を彼の傍に置き続けることも。ずっと黒鋼にさえ言えなかった秘密をこれ以上抱え込んでいくことも。
…打ち明けて、彼に蔑みの瞳で見つめられることも。
ぐっと唇を噛み締めて、半身の眠る部屋の扉を開ける。
「ね、ファイ。決めたよ。
黒鋼に話すこと」
とっくに眼を覚ましていたのだろう。むくりと乱れた着物を直しもせずにファイは起き上がる。
「ユゥイ…」
こつんと互いの額をあわせる。吐息の触れるほど近い距離で二人は見つめあった。
こんな時だって、何も言わなくてもファイはユゥイの言いたいことが分かる。ずっと二人で生きてきたのだから。
「いいよー、ユゥイの決めたことなら」
「…ごめんね」
「いいよー、もし…黒様と離れることになってもオレたちはずっと一緒なんだから」
「そう、だね」
ずっと、生まれたときから一緒だった。
「一緒だね」
二人でなら、彼を愛した記憶と共に生きていける。
ぽろりとあふれ出すように零れた涙が、どちらの頬を、手を、濡らしたのか。

 

PR
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新記事
ブログ内検索
管理人
HN:
仮名
性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
成人。
みかんの国出身。
エネルギー源は酒。
忍者ブログ [PR]