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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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拍手御礼小話を下げました。

まとめて載せるにはちょっと長いので一話ずつ分けます。

では下からどうぞー。

 






日本国忍軍徒然苦労話・十七




天から雷鳴が轟く中、忍たちは白鷺城の一室に集められていた。
黒い雲が空を覆い昼間であっても灯りを灯さなければいけない暗さであるというのに、やや広めのその部屋には蝋燭が数本、覚束なげに小さな火を灯しているだけだ。
閉め切ったその部屋に遠くから稲妻の音が届く。
それ以外の音は幾人もの押し殺した息遣いと僅かな衣擦れ。
しんと静まり返った部屋に、小さな女の声が響いていた。

「…その時でした。背後から何者かが近づいてくるような足音がするのです。
気味悪く思った娘が咄嗟に振り返ると、そこには小さな子どもがいました。五つか六つでしょうか。あどけない顔をしているその子は娘以上に驚いた顔をしていました。
気味が悪いのは相変わらずでしたが、相手は小さな子どもということもあり娘はほっと警戒を解きました」
おもむろに話し手はそこで息を継ぐ。
ごくりと誰かが唾を飲む音がした。
「子どもは自分もまだ小さいのに、どうやらおんぶ紐をして赤子の守りをしているようでした。
親らしき姿はどこにも見当たらず、迷い子か、もしかしたら捨て子ではないのかと娘は子どもの前にしゃがみこんで尋ねました。
『坊やたちお父さんとお母さんは?お家は?』
すると子どもは悲しそうな顔をしてこう言いました。
『大事なものを落としてしまったから、見つかるまでおうちには帰れないの』
娘は不憫に思い『何を落としたの?』そう聞いたのです。
子どもはじっと娘の顔を見つめていましたが、やがてにっこりと笑ってこう言ったのです」

『妹の首が見つからないの?かわりにおねえちゃんの首をくれる?』


小さく息を飲む音と同時に、蝋燭の火がふい、と消えた。
辺りを闇と沈黙が包む。


「てっめえらいつまでもくっちゃべってないで任務につけっ!警護の交代時間とっくに過ぎてんじゃねえか!」
「「「ぎゃ~っ!!!!」」」
恐怖する人間にとっては化け物以上に恐ろしい忍が容赦なく襖を開き怒号を飛ばす。
帝、姫巫女主催、本日の白鷺城忍軍召集の怪談大会はそこでお開きとなった。

「あはは、黒様怒ってたねえ」
怪談大会を堪能したファイは黒鋼の怒鳴り声で蜘蛛の子を散らすように人のいなくなった座敷で悠々と茶を啜った。
ファイにとって育った環境とは異なる文化圏の話というのは、怪談であっても興味深い話に他ならない。
何に恐怖を覚えるのか、というのは実はその国の文明によって左右される場合が多いので、怪談を聞いても怖いという感情よりも、面白いという気持ちの方が先だった。
しかし、そうでは無い者も当然いる。
忍軍の見習いとして身柄を預けられている少年の顔色は甚だ悪い。
蒼白、というのはこのような顔色を言うのだろう。
ファイもそれに気がついて少年の顔を覗き込む。
「あれもしかして葉栗くん怖かった?」
途端にびくんと肩を震わせた葉栗少年は大慌てで否定する。
「ち、違うぞ!あんなもの怖くも何ともない!」
「そうか~、ごめんねえ」
顔面は強張らせるあまりに喋ると舌を噛みそうな様子ではちっとも説得力が無いのだが、少年にはやはり少年なりの矜持があるのだろう。
あまりそれをからかっても可哀想だとファイは気がつかない振りをした。
だが…。
雷が遠くで轟くのに肩を震わせ、風がざざ、と木々を揺する音に飛び上がりそうなほど驚いている様子はどれだけ我慢しても笑いを誘うものでしかない。
思わず忍び笑いを漏らしたファイを少年は顔を真っ赤にして睨むのだけれど、その様子はもう子犬のようにしか見えなくて、ファイは可愛いなあ、と呑気に思った。

「怖くなんか無いんだからな!」
「はいはい~」
「ほ、本当に怖くないんだからな!」
「うん、そうだね~」
結局、ファイの「じゃあ今日は雨降ってて寒いし一緒に寝ようかー」という言葉に、少年は抗えなかった。
昼とは違い雷鳴こそ無いものの、相変わらず雨は降り続けて陰鬱な空気を運んでくる。
頭まで布団を被ってこわごわと布団を外の様子を窺うその仕種は年齢以上に幼い。
この年頃の男の子というのはこんなものだったろうかと考えて、数少ない比較対象たちのことを思い出す。
ただ、比較するにも旅を一緒にした少年や旅の途中で行き会った同じ年頃の子達も、どちらかというとその年齢以上に大人びてしっかりした子が多かった。
加えて葉栗少年は黒鋼曰く、「性根は悪くねえがありゃ甘やかされすぎだ」ということらしい。
それでも、誰かの庇護下にいることが当たり前だったこの子どもは、ようやく自分の足で歩き始めたばかりなのだ。
少しくらいの甘やかしは大目にみても構わないだろうとファイは自分を納得させる。
こっぽりと被った布団の上から頭のあたり撫でてやると少年の動きが固まった。
どれほどそうしていたのか、警戒するように強張っていた少年から穏やかな寝息が聞こえ始めた。
そっと布団をはぐれば、よほど蒸し暑かったのだろう、顔は真っ赤で額は少し汗ばんでいる。
少年が夢路へとついたのを確認したファイは、くすくすと笑いながら自分も体を横にした。


「…おい」
明け方に任務から帰った黒鋼が見たものは、なんとも力の抜けるような光景だった。
すやすや眠る少年とファイを、我ながら狭量にも怒鳴りつけたくなったが、呑気すぎる二人の寝顔を見ているとどうにも力が抜けてしまった。
危機感を持て、とファイに説教をしたいのだが、どうにもこうにも彼は少年のことを「子犬みたいでかわいいねえ」としか思っていないことも知っている。
どうしたものかと、とりあえず知らず知らずのうちにため息だけが零れるのだった。


 

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