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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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拍手御礼小話を変更するので、過去小話を撤去。
長いので今回は3つにわけてログをあげます。

では下からどうぞ。


 


日本国忍軍徒然苦労話⑥

 

凄まじい稲光と轟音が空気を引き裂いた。
ついで、一瞬地震かと間違うような地響きにびりびりと皮膚が震える。
何が起こっているのか分からない者たちは心なしか不安そうに身をすくめる。


だが、本当に恐怖を味わっていたのは事情を知る人間の方だった。


踊るように動いた指先の動きに見とれていられたのも最初の数瞬。指の軌跡そのままに風の中から力が呼応し、光だす。
まるで火薬でも仕掛けたように、何も無い場所に突如として衝撃が与えられ、黒鋼は紙一重で身を翻した。
着地と同時に白刃が一閃する。通常の敵ならばその一撃で葬り去られているが、今対峙している相手がそのように一筋縄でいくはずもない。
純粋に腕力だけならば黒鋼に分があるが、厄介なことに戦い方や太刀筋を知られている上に、相手は黒鋼の主の少女にも勝るとも劣らない魔力を有している。

目に見えない衝撃波が次々と襲い来る。目に見えないそれらを本能にも近い嗅覚で避け、避けられない幾つかは刀で凌いだ。
刀身に威力を殺させてもなお、完全には防ぎきれないそれに黒鋼は舌打ちしたくなる。

無論防戦一方ではない。
ひらりと翻る相手の方袖は刃に切り裂かれ短く、その白い頬にも血が滲んでいる。
金色の髪さえも汚しているその怪我にファイも頓着する風も無い。

間違いなく、二人とも本気だった。


「…ッてっめえ!」
ぎり、と睨みつける忍者の視線に返されるのはこちらも剣呑な視線だった。
あまりの冷ややかさに見つめられただけで切りつけられたような錯覚に陥る。
赤と蒼。対を成すように誂えられたような瞳が今は互いに激しい感情をぶつけて真っ向からぶつかり合う。
こんな時だというのに、場違いにも風にふわりと揺れる金色の髪は美しかった。
「何も話すことなんてないよ、『黒鋼』」
名を強調するように殊更に強い語調で呼ぶファイの声が終らないうちに、突風が砂を巻き込んで舞い上がり、黒鋼が本能的に瞳を閉じた一瞬のうちにファイの姿はかき消えていた。


砂埃がいくらかおさまり視界が開けた時、どこからとも無く声がした。
「ご無事でいらっしゃいますか?」
恐る恐る、といったその声に聞き覚えはないが、気配から察するに何度か黒鋼をファイを見張っていた忍だと知れた。
無事も何も、骨が折れていないのが不思議なくらいで、擦り傷や打ち身の無い場所を探す方が難しい有様だ。
だが、それよりも今の黒鋼には重要なことがあった。

「おい」
たった一言だけ。その声でたちまちに空気が恐ろしいものに変貌するのを、忍たちは鍛錬で研ぎ澄まされた鋭敏な感覚で感じ取っていた。
あえて感情を押し殺すことに努めている黒鋼の声が底知れぬほどに恐ろしい。
いつの間にか鳥肌が立っていた。

「あいつに何を言った」

見張りの忍たちに尋常ではない緊張が走る。
だが、逡巡は僅かの間。幾度も戦場を潜り抜けてきた経験により、沈黙が得策ではないと判断した女忍の一人が黒鋼の背後にすっと身を進める。
黒鋼から誰何の声はなかった。そんなことはどうでもいい。他に聞くべきことがあるからだ。
「申し訳ありません。私どもも油断しておりました」
それだけでは何のことか分からない。だが、見張りとして潜入した忍の幾人かが焦ったように飛び出してくる。
発言を止めさせたい。が、止めて黒鋼の不興を買うのも恐ろしいらしく、その場でたたらを踏むにとどまる。
最初に膝をついたのは忍はおろおろする同胞をちらりと見やると黒鋼の背中に視線を戻した。
背から感じる威圧感だけで彼女も恐ろしいと感じるが、今はありのままを告げるのが何よりも優先されることだと冷静に判断する。
「実は…口の軽い者数名が白の御方に…」

 

 

「貴方の過去に馴染みだった遊女や閨房術の手ほどきをした女忍の話などを面白おかしく吹き込みまして」

 

 

空気が凍った。


しん、とした沈黙がこの上なく恐ろしい。
ファイのあの様子からして、調子に乗ってあることないことをべらべら喋ったとみえる。

激しく自分の所業を後悔している忍たちは知っていた。たとえこの場で黒鋼に殺されなくたって、後からもっと恐ろしい目が待っていることを。
前門の虎、後門の狼という。

(お仕置きしなくてはいけませんわねえ)

忍軍の主のおっとりとした声がそれぞれの頭の中で響いた。
現実のことではないと知りながら、それは、目の前で殺気を隠そうともしない黒鋼と同じくらい怖かった。

 

 


日本国忍軍徒然苦労話⑦

 

ざっと葉を乱暴に踏む音がする。
荒い息を継ごうとした喉が引きつって初めて苦しいのだと分かった。
降り積もった落ち葉を踏みしめた足袋がずるりとすべり、無様に転びかける寸前でどうにか細い木に手をかけて持ちこたえた。
白い足袋の裏は土でどろどろに汚れている。洗濯が大変そうだと考えて、ファイは自嘲気味に薄く笑った。
「帰ったら」の話だ。今はとてもそんな気分ではないのにいつもの癖は抜けない
どれだけ走ったのか知らないが、とにかく人の目を避けたいと思った自分が駆け込んだのは小高い山に生茂る雑木林だった。
人の気配のないそこに来て、初めて落ち着いた気がする。

荒い呼吸を落ち着かせるために一旦足を止めて深く呼吸を繰り返す。
幾分冷えた頭で見直した自分の有様は酷いものだった。
片袖がざっくりと切られている。
ぐちゃぐちゃになった髪紐を結いなおした手に乾いて黒ずんだ血の欠片がまとわりついた。一度それに気がつけば乾き始めた頬の傷口の痛みや、無茶な体勢をしていた間接の痛みがどっと押し寄せてきた。
今までは気を張り詰めていたから体が痛みを認識することすら忘れていたのだ。
一番ひどいのは足首で、先ほど滑った際にひねったらしい。
ずきずきとしたその痛みがこれからもっとひどくなるのがファイは経験から予想した。
帰ろうにもこれでは動くのも難しいだろう、そう考えて、ファイは暗澹とした気持ちになる。
『帰る』というのはそもそも帰る場所があれば、の話なのだ。
最近ではそんなことすら忘れていた。雪の閉ざされた祖国はすでに滅びた。
初めて手を差し伸べてくれたファイの王の国もファイの魔力によって閉ざされた。
どこにも帰る場所のないファイを日本国に存在させているのは、ひとえに黒鋼という存在ゆえでしかない。
黒鋼がいなければ、この世界に自分がいる必要すらないのだ。

けれど、黒鋼がいたって、彼に必要とされなければやはり存在する必要がない。

「馬鹿みたいだなあ…」

勝手に怒って、黒鋼に当たって、飛び出してきた。
過去のことは過去のことで、それを不快に思う権利なんてないはずなのに黒鋼が過去に触れた女性たちの話を聞くのは嫌だった。
どんな風にあの腕が他人を抱いたのか。それを想像するだけで胃の奥が絞られているかのように苦しくなる。痛みが体中を走る。
生娘じゃあるまいに、そう思った端から、自分の体が黒鋼以外知らないのだと思い至る。


呪いと嘘と裏切りと。自分に纏わりつくそれが厭わしくて、他人を汚してしまうことも怖くて。ファイは人から遠ざかったから。半身である片割れ以外を許容してしまう自分を恐れていたのかもしれない。
誰も気がつかないほどに精巧に作られたその殻を破って、触れてきたのは黒鋼だけだった。触れたのも、黒鋼だけだった。

 


泣きたくなるほど、幸せを与えられていたのだと。今更に強く感じた。

 


捨てられたのは初めてではないけれど、帰る場所が無くなって途方にくれる、という経験は初めてかもしれない。
少なくとも王を眠らせた後の自分には「逃げる」という行為が必要だったのだから。
どうしようかと途方にくれた。ただ、今は黒鋼と会いたくなかった。
知世姫に頼めばこれから先、黒鋼の手を離れての生活できるように上手く取り計らってくれるだろうことは想像できた。
自分の決断一つなのだということは分かる。
過去の女たちはすでに通り過ぎたことでしかない。けれども、これから先は?黒鋼の傍にいることがいつか途切れてしまう、そう考えた時の恐ろしさに耐える勇気が足りないのだと思う。
未来への恐怖だけで離れようとしている自分はさぞ滑稽だろうと思うけれど、黒鋼という糸が無くなった時、それは今度こそ独りになる時なのだろうと分かる。

 

 

その時、鬱々と膝を抱えていたファイはかすかな違和感を感じた。
ごく僅かな音だったのかもしれない、肌に感じる風の変化だったのかもしれない。
幾多の修羅場を乗り越えたがゆえの勘だったのかもしれない。
内側から感じる警鐘に従い、ファイは咄嗟に身を翻した。
間一髪で、ファイが座っていた場所に小さな金属が撃ち込まれる。
舌打ちとともに黒装束の忍が木の枝から飛び下り、ファイに匕首の切っ先を向けて襲い掛かった。

黒鋼との戦闘の比ではない殺気が肌を刺す。
とんだ厄日だ。そう嘯く余裕すらなくファイは刃を避けるので精一杯になる。
基本的にファイは決まった得物を持っていないが、比較的何でもこなせる。
けれど今は何も武器となるものを持っていない。
なにより黒鋼とさんざんやりあった直後の体力の消耗と挫いた足の痛みとが相まって、逃げるのすらかろうじて、という有様だった。
いくらもしないうちに追い詰められ、草に足を引っ掛けて座り込んでしまう。
それ以上逃げようがないファイにじりじりと忍が距離をつめる。
既に圧倒的に優位にも関わらず、油断なく間合いを計る相手にファイは観念した。
せめて隙があれば逃げることは出来ないまでも、相手を動けないようにする程度の反撃が適うかもしれないのだが。

「なんで、って聞いたら答えてもらえるのかな?」
軽口めいて訊ねたファイを警戒するのか、忍の平坦な声には僅かに恐怖と悪意が滲む。
「帝や姫に取り入る魔物を消せとの命令だ」
なるほど、と得心する。

おそらくは監視を命じていた人間の差し金だろう。今日の騒ぎでファイの魔力を目にして恐れたものか。
ファイにはおもねったり取り入ろうという気は全くない。なのに何故見知らぬ相手がこれほど自分を恐れるのか、なにやら可笑しかった。
およそ大多数の人間にとって相手をどう見るか、という視点はその実自分の価値観の投影でしかないのだ。
相手の姿を歪めずにありのままを見て取れる人間は少ない。
(オレも人のことは言えないけど…)
微苦笑を浮かべたファイが不可解だったのだろう、逡巡する気配が伝わったけれど殺気は萎えることは無い。
(黒鋼と喧嘩したまま終りたくなかったなー)
そう思い、振りかざされた兇刃に覚悟を決めて目を閉じた。

 

だがいつまでもその衝撃がファイに与えられることは無かった。
代わりにどさりと鈍い音がする。
目を開けたファイの視界には、致命傷でこそ無いものの、深々と刃を突き立てられ蹲って血を流す忍と。

銀色に光る刃から血を振り払う黒鋼の姿だった。

蹲る忍の目が黒鋼の姿を見とめ、はっきりと狼狽し、おびえる。
殺される、そうファイも忍も思った。
だが、黒鋼はそれに赤い瞳を向けてこう言った。
「お前の飼い主に伝えろ」
淡々とした声音は彼の怒りを隠しはしない。
「次は無い」
受けた傷を労わる余裕もなく、忍は這う這うのていで逃げた。

 

よく見つけられたものだが、ファイは黒鋼の姿がそこにあるのが信じられなくて、ぽかんとして反応できない。
「おい」
黒鋼がファイに手を伸ばす。

何かを考えて、そうしたわけではない。
ただ黒鋼から逃げるためだけにファイの指先は咄嗟に次元移動の呪を紡ぎだそうとした。
黒鋼が発動する魔術の種類を理解していたとは思えない。
だが、その鈍色の腕でファイの手を押さえると、そのまま腕をひねり上げて動きを封じる。

「痛っ!」
「逃げてんじゃねえ、人の話を聞け!!」
「聞く必要なんかないよ、君と顔を合わせたくない。さっさと床上手の美人なおねーさんのとこ行けば。オレ邪魔みたいだし」
「昔の話だろうが、いちいち拗ねてんな」
「拗ねてませんっ!それに昔の話でもオレが聞いたのは今日だから!」
「昔の女のことでなんでお前がそこまでムキになってんだよ」
「……っ!!
どうせ!オレは、男の人の悦ばせ方とか知らないし柔らかい体じゃないしそもそも女じゃないから気持ちよくならないでしょ!」
言っていて、なぜ自分がこんなことに拘泥しているのか、惨めになった。
こんな面倒なことを考えているファイが黒鋼には重いかもしれない。
そう思っていると、黒鋼が不思議そうにファイの瞳を見つめた。


「お前…。妬いてたのか」
「妬く…?」
訝しげにファイの眉が寄せられる。
殊更に人に感情を寄せることなど無かったから、ファイは知らなかった。
嫌だとか苦しいとか。黒鋼の過去、特に色事に偏った話をおもしろおかしく他人から聞かされたことを不快に思う気持ちが、『嫉妬』と呼ばれる感情であることに。

「違ッ…」
慌てて否定しようにも、自覚してしまった自分が何よりも納得してしまっている。
頬が赤くなるのを隠したくて、必死に頭を振って黒鋼の視線から逃れようとするのに、その大きな掌は無慈悲にもファイの顔を包み込んで仰向かせてしまう。
赤い瞳から逃げようがない。

みっともない、そう思って薄く涙の浮かんだファイの瞳を間近で見つめながら、黒鋼は小さく笑った。
珍しい笑みにファイの瞳は奪われる。
薄いその唇が、意地悪くファイを促した。
「妬いたんだろ」
「~~悪いっ!!?」
逃げ場のないファイがキッと睨みつけるのすら楽しげに黒鋼は喉を鳴らす。
「悪かねえ」
思わぬ返答にファイが目を瞬いた。それでもすぐに不安そうに眉が下がってしまう様子に、黒鋼も観念する。
本当ならこんなこと口にするようなガラではない。けれど、このまま自分の手から去っていくかもしれない懸念をそのままに出来るほど黒鋼は楽観的ではない。
何より、口にすれば相手を怒らせることがわかっているが、過去に感情さえ伴わず生理的な反応だけで抱いた女相手に、この魔術師がこれほどに嫉妬したという事実がなんとも気分が良かった。

「昔のことじゃねえか。今はお前だけだ」
あまりにも簡潔な告白にファイは呆然とする。
「今だけじゃねえ。これから先もだな。
俺が欲しいのはお前だけだ」
「嘘…」
「嘘じゃねえよ」
確かめてみるか?そう囁く男の唇が熱いと思ったときには、裾から手が素肌を求めて進入していた。
こんなところで、などという忌避も今は遠い。
確かめなければ不安だった。即物的な熱で構わない。
今の言葉が嘘にならないうちに、そんなことさえ思いながらファイは手を伸ばす。

 

殺し合いでも演じたかのような数時間前が嘘のように、甘やかな熱が二人を支配する。
最低限だけ乱した着衣が却って一層の興奮を誘い、何度も啜り泣くように吐息を漏らすファイを黒鋼はことさらに焦らすように丁寧に抱く。
爪を立てた腕の感触も首筋を這う唇も腰に絡みつく足も、何もかもを確かめるようにひたすらに肌を重ねた。

 

 

 

余談ながら。
屋敷での監視なら、屋根裏と床下の担当だけが辛い思いをしなければいけない情事の一切を見せ付けられて血涙を流す忍が数名、雑木林に気配を溶け込ませていた。
必死で押し殺しても聞こえる喘ぎが、男だとわかっていても艶かしく、耳をうつ。
頼むから一度で終って欲しい。皆がそう思っていた。


 

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