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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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僕だけのかみさま、続きです。

気づけば次で大台…。ありえねえ…。
自分の計画性の無さにがっくりです。


では下からどうぞ。






部屋の中は何ともいえない奇妙な緊張感に満ち満ちていた。
基、ファイはひたすらに緊張しきっていた。
「朝飯、なんか食うか」
お前も、と黒鋼に言われ、無言でこくこくと頷く。
黒鋼に怪訝そうに見られて、ファイは一層首を竦めて身を縮こまらせた。

最悪なことに、昨夜の記憶がファイにはあった。
さすがに一部始終覚えている、というのは無理だったが、飛び飛びではあっても自分がどんな振る舞いをしたのか、黒鋼に何を言ったか忘れたわけではない。
今までだって散々醜態をさらしてきた自覚はあるが、今回はそれを軽く上回るかもしれない。
好意を持つ相手に、他の男に振られて自暴自棄になっている姿を見られた挙句、いくら酔っていたとはいえその本人を良く似た人間、と思い込んで寝ようと誘ったのだ。
もしも時間を巻き戻せるのならば、過去の自分の首根っこを掴んで土下座させてやりたい。
後悔と居たたまれなさに、身を強張らせたファイは「おはよ…う、ございます…」とぎこちなく呟くのが精一杯で、黒鋼が胡乱な目を向けてくるのを知ってはいたもののそれにどう反応を返せばいいのか分からなかった。
「これ使うぞ」
そう断って冷凍庫の奥から引っ張り出した作り置きのトマトソースと、かろうじて残っていた乾麺のパスタを黒鋼が温める。
ファイはそれをぼんやりと眺めた。
二人でこんな他愛の無い日常的な会話をしたのは、いつ振りだろう。黒鋼の部屋に通っていた日々のことを、まるで昨日のことのように鮮やかに思い出せるのに、それはどこまでも果てしなく遠い景色のような気にさえなってくる。
鍋に湯を沸かしている間に、フライパンでソースに一度火を入れている黒鋼の背中を見つめた。

戻りたい。

恋なんて、願ったりしないから。愛なんて、求めたりしないから。
屈託なく冗談を言って笑いあう、あの時間に戻りたい。
置いてきぼりをくらた子どものように、ファイは心細くなった。黒鋼の背中をじっと見ていると、もうこのままこちらを向いてくれなくなってしまうんじゃないかと、くだらない心配が胸を襲ってくる。

独りが嫌で、束の間寂しさを埋めてくれるのならば誰でも良かった。そう思っていた。
それなのに、彼の声を聞けば、姿を見れば。ただ、黒鋼に独りにされるのが恐ろしくてしょうがない。
この人に、背中を向けられるのが、何よりも怖い。
たった3メートルにも満たない距離を、祈るようにファイはその背中を見つめ続けていた。
大きな手が沸騰した湯の中にパスタを放り込んでひと混ぜし、火を中火に落とす。先にフライパンの中で一端火を通されたトマトソースはすっかり解凍され、こちらの火は止められた。
タオルで手を拭う黒鋼が、ぼんやりとそれを見つめているファイに気がつく。
視線が合ったことに気がついてファイは慌てて目を逸らしてしまう。しまった、と思っても後の祭りだ。
ふん、と鼻を鳴らした黒鋼が、大股でファイの傍に歩み寄り、すぐ傍に屈みこんだ。
視線が近くなったことに落ち着かなくなって、ファイは無意識にじりじりと後ずさる。すぐに背中が壁にあたって逃げ場など無くなるのだが。
黒鋼の視線が自分にじっと注がれているのが分かって、ファイの頬にじわじわと血が上る。
顔を背けたファイにいい加減痺れを切らした黒鋼が、低い声で「おい」と呼びかけた。
ぴくりと跳ね上がった肩が言葉よりも先に黒鋼に応えた。
「今までのことは言いたくなきゃ無理に聞かねえ…。馬鹿みてえなマネはすんな、ってもういっぺん釘は刺しとくがな」
体の奥まで染み込むような黒鋼の声に、ファイの中で小さく喜びと懐かしさが疼いた。
「だが、一つだけ聞かせろ」
おずおずと黒鋼の顔を見上げたファイに真っ直ぐな黒鋼の赤い瞳が飛び込んでくる。射抜かれそうに強いそれからファイは目が離せない。
「お前は、本当はどうしたいんだ」
耳にした途端、逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
もう諦めるから、戻りたいのだと、黒鋼に言えるわけもない。
黒鋼は、ファイがホストをしていることも、ろくでも男ばかり付き合っていることも、まともな生活をしていないことも知っている。
それでも、ファイが黒鋼を好きでいることは知らない。
それを諦めてでも傍にいたいのだと望んでいることを、告げてどうなるものでもない。
お願いだからそっとして置いて欲しかった。ほとぼりが冷め、何も無かったふりが出来るようになって、そうしたらまた元の様な付き合いがしたいのに。
ファイは無言で何度も頭を振る。
言わない。
言えない。
言ってはいけない。
無言で拒絶を示すファイに黒鋼は大きく溜息を零す。いつもの彼の仕種に、こんな時だというのにファイは泣きそうになるほど好きだと思った。
黒鋼がファイの退路を塞ぐように壁に手をつく。黒鋼の腕がファイの顔のすぐ横にあるのにファイの心臓が高鳴る。
「何を、思っている?」
どくどくと鳴る心臓が破れそうだった。嫌だ、と首を横に振るばかりのファイの顔を、黒鋼の手が押し留めて上向かせる。
息が触れ合うほど近く、真正面から覗き込まれ、もう、嘘をつくことさえも許されない。
どんな誤魔化しも、見破られてしまう。

言わないと決めた。決めたのに、思いはするりと唇をすり抜けて零れた。

「…オレ、は」

息が苦しい。これできっと自分たちの関係は、関係性は終ってしまう。

「君の、ことが…好きなんだ」

変わるのではない。終る、のだ。
そう思ってファイは瞼をぎゅっと閉じた。次に目を開けた時には、黒鋼の困惑したような表情が自分の視界に広がっているのかもしれない。
拒否や嫌悪、侮蔑の色であってもおかしくはない。
何度も自分に言い聞かせて、嗚咽が漏れないように呼吸を無理矢理飲み込んだ。
力なく黒鋼の手を振り払い、重い苦しさを抱えて俯くファイの耳に、黒鋼の声が響く。

「やっと言いやがったな」
その意味を理解するよりも早く、自分の物ではない体温に体を包まれる。
吸い込んだ日向の匂いが胸に満ちて、幾度も瞳を瞬かせて。そうしてようやく黒鋼に抱きしめられたのだと気づいた。

抱きしめられた大きな肩の向こうで、鍋が小さく穏やかな音をたてていた。


 

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