忍者ブログ
二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
[902]  [901]  [900]  [899]  [898]  [897]  [896]  [895]  [894]  [893]  [892
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

僕だけのかみさま、続きです。
次で終ります。

拍手いつもありがとうございます。


では下からどうぞー。







ひと目見るなり、大仰な溜息をつかれた。
「本っ当に何も無かったのね…」
ついでに憐れみとも呆れともつかない視線を投げかけれらる。

店のオーナーとして、人を見るのも、状況を読むことにも長けているのは前々から知っていたが。
黒鋼とキス以上に進んでいない事実を見破られたことに、ファイはぐっと息をつまらせた。
「いいんですー。黒様とは、…もっとちゃんと考えて、真面目にお付き合いするから…」
それでも、負け惜しみではなくそう言ってのけたファイの頭を、「いい子、いい子」とからかうように撫でるオーナーの視線は優しかった。
「本当に、好きだから…軽はずみなこととかしないように…相手が考えてることとか、尊重したいし…。そしたら、今までみたいに自分だけが一生懸命みたいにバタバタしてるのも失礼なのかなって…」
珍しく言葉が見つからないらしいファイがつかえながらもそう言うのに、鮮やかなルージュを乗せた唇が微笑みを形作った。
「ちゃんと分かった?」
何が、とは言わない。
それだけでファイには充分だった。こくりとひとつだけ小さく頷きを返す。
慈しむような微笑をそっと返し、オーナーは「そう」とだけ呟いた。

 

店以外では黒鋼の部屋ですごす時間が殆どだ。
少しでも彼の香りが感じられる場所にいたい。そんなことを考えているとどうしても、足は自分の部屋ではなく黒鋼の部屋へと向かってしまう。
いい加減部屋代が勿体無いだろう、と笑われもしたけれど。全部、自分の何もかもが彼の気配に染まればいいと思う。
彼のいない部屋で、彼のことを思う時、不意に鼻の奥がツンと痛んで、泣きそうになる。寂しさでも悲しさでもないそれを、「『幸せ』っていうのよ」と優しく囁いてくれた声の持ち主は、ファイの頬をそっと撫でてくれた。
何もないのに、体中が温かな水で満たされているような気持ちになる。指先までも温かな何かが満ちて、溢れそうな気さえする。
幸せ。ふわりと胸の中に舞い込んだ柔らかな気持ちをそう言うのだろうか、と考えた。
ぼんやりとそうなのだろうか、と自問し、そうなのかもしれない、と自分自身で結論付ける。
自分だけでは多分その答えなど見つけられるはずもなくて、黒鋼と二人でなければきっと分からないものなのだろうと思った。

黒鋼の帰りを待ちながら、ハーブで香り付けした野菜ピラフとラム肉の赤ワイン煮込みを用意する。
これだけでは栄養としてどうなのだろう、とこの部屋の主の食欲やバイトと学業三昧の生活振りを考え、それに小松菜とエリンギのソテーとクズ野菜のスープを付け加えた。
もともと稼ぎが悪いわけではない。妙な男とくっつきさえしなければ、どちらかというと収入に見合わない慎ましやかな生活を送るファイだ。以前のようにがむしゃらにお金が必要というわけでもない。
自分一人分の生活ならば―それに多少もう一人分の食費が必要だったとしても―充分賄える。
最近では緊急以外は週に4日程度、決まった曜日にしか店に出ないようになっていた。
一度落ち着いて身の回りのことを考えたい、と言ってはいるものの、単純に黒鋼と一緒にいる時間が欲しいというだけの理由なのは周知の事実らしい。
ふわふわとした気持ちに浮ついているように見えるだろうかという心配とは裏腹に、店でも落ち着いた雰囲気になったと常連客の評判も上々だった。
以前の自分が果たしてどのように彼女らの目に映っていたのか、多少複雑ではある。
そんなことを考えながら鍋の火をおとそうとしたが、部屋に近づく足音を耳にして思わず手が止まる。
実にいいタイミングで帰ってくるものだと思いながら、皿を取り出す。知らず唇がゆるむが、弾むような心は抑えられない。
部屋の明かりがついているので、既にファイが中にいるのも分かっていたのだろう。部屋の主は鍵がかけられているかどうかの確認もしない。
「お帰りなさーい」
「腹減った…」
ただいま、というよりも先に口からそんな言葉が零れる黒鋼に、ファイは軽やかな笑い声をあげた。



特に熱中している娯楽があるわけでもないから、二人でいても何をするわけでもなく、何となくくっついている。
時折視線が合えば、キスを交わす。
悪戯の様に軽く終わらせる時もあったし、言葉を重ねるよりも深くなる時もあった。
ただ、僅かに苦しさを覚えるほどに口接けた後、互いにどうしようもない熱に揺れていることを知っている。
本当にこの先に進んでしまってもいいのだろうか、と躊躇う気持ち。それでも、と求める気持ち。どちらも本当で、手探りで相手の本心の向かう先を探していた。
おそらく、キスを交わすたびに相反する緊張感に震える指先に、黒鋼も気づいている。
関係を先に進めることで、今の二人の関係が壊れてしまうかもしれないことを、怖いと思っている。
けれど唇が離れていくのを寂しいと感じ、縋るように見つめてしまう自分もそこにいた。
もっと、深くまで抱きしめられたい。そんなことを思って今離れたばかりの男の唇を目で追う。
捨てられた小動物のように泣きそうな表情に見えて、困ったように黒鋼が笑った。
「俺は…男同士のやり方なんざ知らねえぞ」
照れ隠しのようにがしがしと頭を掻いて誤魔化すが、黒鋼もとっくに気づいていた。
おそらく、一線を越えて戻れない場所まで行き着くであろうことを。
それを望む、自分自身も。
間近に見交わす瞳の熱が、いっそう上がる。
「うん、オレが教えたげるから、…だから」
して欲しい、と呟く前に、唇がぶつかって言葉はうまれなかった。


肌に、唇を落とされる。
汗でぬるついて首に、必死で縋る。
手を伸ばせば握り締められ、指を深く絡み合わせ。
体の隅々まで、何もかも、愛されているのだと感じられる。
そんな抱き方もあったのだと、どちらからとも無く熱い吐息零れた。
これ以上ないほど、近づいて。初めて分かったのは、途方もない幸福感と止め処ない己の感情。



 

PR
01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28
最新記事
ブログ内検索
管理人
HN:
仮名
性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
成人。
みかんの国出身。
エネルギー源は酒。
忍者ブログ [PR]