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完結までお付き合いくださった皆様、ありがとうございます。
拍手ありがとうございます。
では下からどうぞ。
心臓の音がうるさくて、今にも破裂してしまいそうだ。
唇を合わせながら、互いの衣服の下の肌をまさぐる。
ずっと触れ合っていたいのに、呼吸をつぐために唇を離さなければいけないのも、服を脱ぐために腕を離さなければいけないのも、どれもひどくもどかしい。
そんなことを考える。
身を横たえた布団からは、黒鋼の部屋の匂いがした。
そんな小さなことひとつが、ファイの胸を疼かせる。
黒鋼ではない、誰かに抱かれた自分の部屋で暮らすのは嫌だった。
今まで恋人と呼んでいた何人もの男たちを部屋に招きいれるのは平気だったのに。キスを交わすのも、体をくっつけ合うのも。そんな場所でするのは今ではもうごめんだ。
そんなことを考えるのは初めてで、戸惑うと共に好きだという気持ちが満ち満ちる。
きっと、そんなことを思ってしまうのは黒鋼以外にはいない。
「どろどろに…解けてひとつになっちゃえばいいのに…」
熱の篭る吐息混じりに囁くファイの下唇を、黒鋼がやんわりと食んだ。
「困るな、そりゃ」
「どうして…?」
肩や腕に綺麗についた筋肉に、ファイはそっと爪を立てる。自分の痕が、一つでも残るようにと祈りながら。
「触れねえだろ」
ファイの頬をぺろりと舐めた舌が耳朶に触れると、そこから熱さがじんわりと染み込んで脳の中まで痺れそうになる。仕返しのように脇腹を撫で、固い腹筋につい、と指を滑らせれば耳元で黒鋼が息を詰めるのが分かった。ファイもそれに煽られ、ぞくりと背を震わせる。
仰け反った首筋に獣のように歯を立てられ、このまま貪り尽くされたいとさえ思った。
いつの間にか、噛み付くようなキスを幾度も幾度も繰り返していた。無我夢中でファイの手が黒鋼の中心へと伸ばされる。
「…熱い」
触れたそれに指先を絡め、両の手指でひたすらに刺激する。口内を荒らす舌にぞくりと震え、疎かになりそうな手を叱咤しながら懸命に動かした。
キスの合間、息苦しさに思わず薄っすらと瞳を開ける。いつの間にか涙でぼやけていた視界の中に赤い瞳が間近で映った。
「気持ちいい?」
息継ぎの上手く出来ない唇から零れる言葉はひどく幼くたどたどしい。
合わせるだけの軽い口接けをした黒鋼が僅かに苦笑した。それが答えだと何となく分かって、ファイもつられて微笑った。
ローションを使って黒鋼の目の前で、受け入れるための場所を解す行為は被虐的な快楽を増長させる。
膝立ちのまま、向き合う男の目の前でまるで自慰をしているような錯覚に羞恥を確かに感じているのに、同時にもっと見つめて欲しい気持ちさえもある。
下肢も、手も、ローションと自らの体液でどろどろだった。
ぐちゃり、と濡れた音に黒鋼の喉が思わず動いたのを見て、ファイはうっとりとその肩に身を寄せた。
充分かどうかは分からないが、繋がるのが不可能というわけではなさそうだ、と判断して黒鋼の屹立を宛がう。
早く、繋がってしまいたかった。そんな風に思うことなど今まで一度だってなかったのに。
さっさと終らせてしまいたいと思うことはあったとしても、焦れったいほどそんな風に自分が相手を求めているだなんて。
嬉しいのか、信じられないのか、恥かしいのか。頭の中はぐちゃぐちゃでもう解らなかった。今は解らなくても、このまま二人で居れば、きっと解る時が来る。
「んっ…、っあ…っ」
そろそろと腰を落として、黒鋼の熱を受け入れる。僅かな痛みはあったけれど、熱塊がファイの内側を擦る度に全身が粟立つような気持ちよさがファイを襲った。
どうしていいのか分からないのだろう黒鋼が、宥めるようにゆっくりと背中を撫でるのに胸が熱くなる。
逞しい胸板へ半ば以上体重を預け、ゆっくりと最後まで飲み込んだ時にはそれだけで意識が飛んでしまいそうだった。
不思議なことに、いつも誰かと体を重ねるたびに感じた気持ち悪さがファイを襲うことはない。ただ、呼吸を整えながら、自分の中で脈打つ怒張に腰が甘く痺れて堪らなかった。
黒鋼の腕がファイの体の負担にならないように、背中をゆっくりと抱きしめる。
動いて欲しい、と果たして口に出来たのかどうかは、分からなかった。
逞しい腕に腰を掴まれ気がつけば、ファイは黒鋼の肩にしがみつき自分でも腰を揺らしていた。
遮二無二に手を伸ばして、体の輪郭を確かめあう。
止め処なく溢れる声と涙を奪うような口接けに、自分からもぶつかるような勢いで唇を合わせて、噛み付く。
男と抱き合うなど、黒鋼にとっても初めてで全くと言っていいほど勝手が分からない。
それでも、自分の腕の中で快楽に蕩けたファイを見ているうちに、体が勝手に動き出す。
探るように浅く、深く突き入れ、ひと際激しい反応を見せるそこをわざと掠めればファイの全身が戦慄いた。
「黒様ぁ…」
頭の芯が焼け付くような衝動に、溜まらず、搾り尽くすように蠕動する内側へと叩きつけるように果てる。
ふるふると唇を震わせるファイの中心はいつ絶頂を迎えたものかも分からぬほどにとっくにぐっしょりと濡れそぼっていた。
荒い呼吸も整わぬうちに、ファイを布団に押し付けるように黒鋼は覆いかぶさる。どちらからともなく、手が伸ばされた。
手を伸ばした先、互いに、互いだけなのだと確かに感じた。
言葉が言葉の形にならなくなって、それでもその中に籠められた互いの気持ちが、皮膚から直接体へと浸透していく。それが錯覚だとしても、何て幸せな。
唇にも、頬にも、首にも、肩にも、腕にも。どこかしこに触れても、全然足りなくて更に求めた。
「…何やってんだ」
「…」
「おい」
蓑虫のように布団にくるまって、一向に姿を見せようとしないファイに黒鋼は歎息した。
もしかしたら後悔でもしているのだろうか、と一瞬不安が脳裏をよぎる。
それでもいつまでも寝かせておくのも良くない。せめてシャワーくらいは浴びせないと、と無理矢理布団を剥ぎ取った。
「…っ!」
慌てて両腕で顔を隠すが、生憎と耳や首まで真っ赤になっているのは隠しようがない。
顔を隠す両手を強引に開かせると、ファイが半分泣き出しそうな顔で黒鋼から目を逸らした。
「…き、昨日のオレは…オレじゃ、アリマセン」
思わず語尾が片言じみたファイに、黒鋼は怪訝な眼差しを向ける。
「あ?」
「だって…」
もぞもぞとどうにか黒鋼の手から布団を奪い取ろうともがいているのだが、片手で顔を隠しながらでは全くと言っていいほど無意味だ。
じっと注がれる黒鋼の視線に耐え切れなかったのか、ファイは布団を引っ張ることを諦めて再度両手で頭を抱えた。
「…は、ずかしい…ん、だけど…」
「…」
言った瞬間黒鋼とファイ、双方の脳裏に昨夜の睦言が蘇る。
常になく卑猥なことを口走っていたような記憶にファイは耐え切れずに突っ伏していた。元から寝転がってるので、更に身を小さくしようと無駄な努力をしただけだったのだが。
黒鋼もどう声をかけていいのか言葉が出ず、しばし微妙な沈黙が落ちた。
結局その空気に耐えきれなくなったのか、ファイはやおら急に起き上がると黒鋼に抱きついて顔を隠した。
「…嫌いにならない?」
くぐもった声が黒鋼の体を擽る。
どういう意味でどう答えたものかと逡巡する黒鋼を、ファイはちらりと泣き出しそうに真っ赤な瞳で見上げた。
「だって…あんなふうに気持ちよかったの、初めてで…わけ分かんなかったんだよ。でも、…く、黒様はっ…はしたなくて嫌じゃないのかな、って…」
成人男性に感じることではないのだろうけれど。鬱陶しいよりも、「もしかしたらこの生き物は可愛いというやつなのだろうか」と黒鋼の脳裏をらしくもない考えがちらりと横切った。
そんな自分も大概おかしいのだと自覚はあったので、誤魔化すように、ファイを抱きしめる力を強くする。
「黒様?」
答えには、口接けひとつで充分なはず。
誤魔化した、と拗ねるように膨れたその頬が赤く染まっていることなど、互いに承知の上だった。
涙交じりの夜は、もう遠い。
たった一つ。自分だけの尊いものを手に入れた。