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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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大学生パラレルの続きです。


では下からどうぞ。










はらはらと零れ落ちる涙が頬を濡らしていく。
瞳から溢れ出したばかりのそれはひどく熱い。
ファイはぼやける視界に、それでも黒鋼の姿から目を離せないでいた。
ファイの気持ちなど知りもしないだろう黒鋼が、その大きな手で触れてくる。
いつもよりも丁寧に、そっと頬を滴る涙を拭うと苦笑した。眉間の皺はいつものことだったけれど、その表情は優しい。
「泣くな。ただでさえ水分足りてねえのに干乾びちまうぞ」
優しい彼の指先が心地よくて、もっと触って欲しいと思う。
諦めようと決めたのに。


点滴と睡眠をとって多少はマシになったのだろう。まだ少しふらつくものの、体は随分と楽になった。
帰りのタクシーに乗っている間、二人は一言も口を聞かずファイはらしくなく自分が緊張しているのだと気がつく。
支えてくれる彼の腕も胸も、己の思いに気がついてしまった今となっては狂おしいほどに欲して止まないものだ。
黒鋼が好きだ。
ただそれだけの感情が、何もかもを変えた。

部屋の扉を開けようとしたところでファイは黒鋼を困ったように見つめた。
「あの、…迷惑かけてごめんね」
「悪いと思ってんならきちんと飯食え、寝ろ、不摂生なことしてんじゃねえ」
う、と口ごもるファイの手から鍵を奪い取ると、黒鋼は扉を開けて当然のような顔でファイの手を引いて部屋の中に入る。
せめてのお詫びにお茶でも出した方がいいのか、それとももう黒鋼に帰ってもらったほうがいいのか、迷っている間に黒鋼は冷蔵庫の中を見て呆れた声をあげた。
「お前、これは人間の生活できる状況じゃねえだろ」
「ご、ごめんなさい…」
ミネラルウォーターすらない冷蔵庫の中身はさすがにファイも言い訳できない。
慌てて謝るファイに黒鋼は一つ大きなため息をついたがそれ以上言及することはせず、またファイの手を引いて今度はベッドに放り込む。
問答無用で布団を被せられて、何がどうなっているのか分からない。
「寝てろ。その間に適当に食いもん買ってきとくから」
「え…?いいよ、そんなの悪い…」
慌てて跳ね起きようとしたファイの頬を黒鋼の指がぎゅうっと抓んだ。
思わず痛い、と言ったファイに当たり前だ、と黒鋼が答える。
病人がつべこべ言うな、と逆に怒られてすごすごと布団に大人しく収まるしかない。それでもなお諦め悪く、ファイは遠慮した。
「だって、そこまでしてもらうのって悪いと思う…」
だって、そんな権利ないのに。そう胸のうちで呟いたファイの横に、黒鋼が無造作に座ったので、心臓が一瞬跳ね上がる。
また、呆れさせてしまっただろうかと怖くなる。諦めようと決めたのに、嫌われたくない。そんな矛盾から逃げられなくて、思わず身を竦めた。
「自分の大事なやつに何かしてやりたいって思うのは悪いことじゃねえよ」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
ひどくぶっきらぼうな声で言われたのは照れ隠しだからだと数秒遅れて脳が理解する。
呆然とするファイの前髪を黒鋼の掌が優しく梳いて、見上げる青い瞳が露わになった。
「わがままでも何でもいい、聞いてやるって言ったからな。そうしたら、お前は俺のものになるんだろう」
随分と傲慢な言い様だと、そう思う気持ちすら湧かない。
ただ、信じられない。

『全部あげる』

『全部あげる。
オレにあるものならなんだってあげる。全部あげる。
だからお願い』

「嘘…」
「嘘じゃねえ」

『オレの全部になって』

「じゃあ、夢だ…」
「夢でもねえ」

信じられなくて、手を伸ばすことすら怖くて、怯えるファイに黒鋼は言う。
「嘘でも夢でもねえよ。俺が俺の意思で決めた」
どうしよう。
急に湧き上がってきた感情はその一言でしかなくて、狼狽えるファイの掌を黒鋼の掌が握り締めた。
赤い瞳と視線が合わされる。
「信じられねえなら、気が済むまで確かめろ」
恐々ともう一方の腕を黒鋼に伸ばした。
指先が触れて、黒鋼の体温がファイに灯る。
後はもう、遮二無二に黒鋼の体に縋り付いていた。
抱きしめてくれる腕も逞しい首筋も言葉の乱暴さとは裏腹な優しさも、何もかもが自分の手に入ったのだと信じられなくて、信じたくてどうしようもない。
悲しくもないのに、涙が止まらなくて黒鋼の肩と胸と随分と濡らしてしまった。
また呆れられてしまうかもしれないとちらりと考えたけれど、途方もない歓喜の前にそれはたちまち掻き消えていく。
ずっとずっと愛しくて欲しくて焦がれていた。

体中から感じる彼だけが今一番の真実だった。


 

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