忍者ブログ
二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
[1257]  [1256]  [1255]  [1254]  [1253]  [1252]  [1251]  [1250]  [1249]  [1248]  [1247
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

永住特殊設定小話です。

色々しなければいけないのですが、今日はこれから病院です。行ってきます。
夜にでも拍手お返事できれば、と思っています。
バタバタしてごめんなさい~!

拍手ありがとうございます。

では下からどうぞ。









その日、諏倭の地は喜びに湧いていた。
かつては焦土と化した地だった。永らく荒れた土地を魔物に怯えながら拓き、復興を目指した。
そして今日新たに――。否、ずっと待ち望んでいた諏倭の守護者の血脈を領主として迎えることが叶ったのだ。
魔物に蹂躙され、失った諏倭の領主と巫女。その二人の血をたしかに受け継いでいる一粒種の若君が、今日ようやく諏倭の領主として諏倭に戻ってくる。
諏倭の民が喜ばないはずが無い。
今か今かと来る日を指折り数え、いよいよ到着の報が入ったその日の朝から、忙しなく領主の館の前で待ち構えている。
領地の境を越えたという報せから間もない。すぐには着くはずなどないと分かっているにも関わらず、皆が期待に満ちた顔でその時を望んでいた。


出迎えた領民の姿を見て黒鋼は珍しく素直に笑った。
そうすると彼の父親に良く似ている。昔を知る者は懐かしさのあまり瞳にうっすらと涙を浮かべていた。
口々に歓声をあげる民に囲まれた黒鋼の後ろでファイは軽やかに馬から降りた。時折ちらちらと視線が寄越されるが、さすがに領主を差し置いてファイへと向かってくる人間はいない。先んじて領主と一緒に巫女も遣わすと白鷺城からの触れがあったからかもしれない。
おかげでゆっくりと辺りを見回す余裕があった。
魔物に荒らされた諏倭の土地は未だに荒廃の痕が残るものの、領民たちの顔に満ちた明るさを見れば黒鋼が暮らした頃のような元の力を取り戻すのは不可能ではないだろうと思えた。
眩い緑を眺めているうちにファイは人の輪から少し外れたところに、大人たちに連れられてきたのだろう子どもたちが数人固まっているのに気がつく。
大人たちが黒鋼を囲んでいるその中には入れないのだろうが、こちらに興味をもっている気配はひしひしと伝わってくる。
自分もちょうど手持ち無沙汰だったことでもあるし、ファイは恐れ気もなく子どもたちに近づくと声をかけた。
「こんにちは」
急に声をかけられて吃驚したのか、互いに顔を見合わせながらも子どもたちが口々にこんにちは、とファイに答える。
一度口を開けば打ち解けるのは容易い。ファイも子どもが嫌いではないからにこにこと相手をしてやる。
「もしかして巫女様?」
「うん。知世姫からお許しをいただいて、今日から諏倭の巫女になります」
よろしく、と頭を下げたファイに子どもたちが嬉しそうに纏わりついた。
巫女の不在の間ずっと、魔物のいつとも知れない襲撃に怯えていたのだ。魔物の襲撃の全てが避けられぬまでも、心強い領主と巫女がいる。こんなに嬉しいことはない。
はしゃぎ、ファイの周りを跳ね回る。本来ならそれを止める大人たちが黒鋼の周囲に集まっているのだから誰も咎める者がいない。
中でも一番小さな子がファイの膝にしがみ付いた。するりと、恐れを知らぬ無邪気な幼子の手に引っ張られ、ファイの被衣が滑り落ちる。
「あ」
太陽の光に思わず瞳を細めたファイの目の前で、領民が息を飲んだ。
月が零れたのだと、誰もが思った。
ぽかんと口を開いた子どもに微笑みかけ、ファイが身を屈める。
覗き込んだ瞳がまたもついぞ見たこと無いような蒼で、子どもは好奇心のままに尋ねた。
「巫女様は天人様?」
「違うよ。天よりもずっと遠くの国から来たのは本当だけど」
「天よりも遠く?」
「そう。ずっとずっと遠く」
「とおく…」
本当に天人ではないのか、と首を傾げる子どもたちとは裏腹に大人たちは息を飲んだままだ。

一つは異国生まれの異相の巫女に驚いたこと。
もう一つは。
その異相が、月から零れ落ちたかの如き姿であったこと。

いわずと知れたことであるが、姫巫女をはじめとし日本国の各領土の領主や巫女に与えられた紋は「月」である。
太陽は帝一人きり。それに敬意を払ってその他の紋は全てその光を受けて輝く月なのだ。同時に、それは遍く地への守護でもある。
それゆえに民は月の紋に象徴される月の加護に、絶対ともいえる畏敬を抱く。
その、月の化身とも見紛う人間が目の前に立っている。

知らず、息を飲む民はいつしかすっかり静まりかえっている。
不思議そうに屈んだまま視線を上げるファイに、黒鋼は一つ苦笑を溢して見せた。
ファイ本人は何が起こったのか分かっていない。自分の外見が関係しているのだとは思っていても、民の無意識の畏敬にまでは気がつかないはずだ。
人を掻き分け、子どもたちとすっかり打ち解けたファイの側に近づくと黒鋼は被衣を拾い上げた。
「日が強いんだから落とすな」
「でももうお屋敷についたんだし、いいじゃない」
ね、と子どもと顔を見合わせて黒鋼相手に気軽な口を聞くファイの笑顔に、思わず領民たちも緊張が緩む。
異国生まれのファイが巫女として受け入れられるかを案じていたが、この様子であれば心配はなさそうだと黒鋼も内心安堵する。

新領主の連れてきた巫女は、月から与えられた巫女だと口を揃えて皆が言い始めるのに、時間はそうかからなかった。




 

PR
01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28
最新記事
ブログ内検索
管理人
HN:
仮名
性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
成人。
みかんの国出身。
エネルギー源は酒。
忍者ブログ [PR]