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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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日本国永住設定長編の続きです。
えーと、これ本当に五話で終らせるつもりだったんですが…。
終ると思ってたのに!
しかも今回も予定していたところまで行き着かず…。
黒鋼のバカー!早く手ぇ出せよー!

ところで風邪をひきました。
弟からうつされたのかは微妙です。熱はないのですが、頭がふわふわして喉が痛いという感じ。
なんか日本語がぽろぽろ頭から落ちる感覚に襲われて仕方ないんですが…。

うう、今日女体の方アップ出来るんだろうか…。

拍手ありがとうございます。


では、下からどうぞ。








膝をつく蘇摩の前に座すのは帝と姫巫女。人払いを命じた室内に主二人以外の人間はおらず、顔を上げた蘇摩に帝は姿勢を寛げるようにと声をかけた。
それで、と艶やかな朱唇を綻ばせる帝の顔はいささか険しい。傍らに座る姫巫女の顔にも僅かな憂いが落ちている。
「黒鋼の飲んだ薬湯の中に、混ぜ物が」
蘇摩の声に二人が「やはり」という表情をする。
入れたのは年若い薬師の娘だった。城の人間であり、ましてや薬を取り扱う人間から渡された物を疑う人間は確かに少ないだろう。
手渡したファイを最初に疑う向きもあったのだが、受け取ってすぐさま黒鋼の手に渡しており、薬の混入など出来はしない。
恋の妙薬、と名づけられ娘たちの間でもてはやされた白い粉。調べ始めて間もなく、彼女の懐から出て来た小さな壺の中身は媚薬ともまじないともつか他愛のない物のはずだった。唯一、そこにこめられた思いのみが、真実であったはずなのだが。
三度、意中の相手に気づかれないように飲ませることが出来たのならば、思いが通じる。そう謳われた妙薬の中身はささやかな恋心すら打ち砕くものだった。

「知覚を麻痺させ、催眠状態に陥る薬が混ざっておりました。量を過ぎれば、嘔吐や呼吸の乱れが起こり意識の錯乱、喪失を。最悪には心の臓が止まることもあります」
あえて毒、と名言しないのは蘇摩が忍であるとともに薬学の知識に精髄しているためだ。
毒も薬もそれは表裏一体のものである。
薬であっても使いようによっては命を落とすこともあり、毒と信じられているものであっても適正に扱うことで強壮薬や麻酔となる。
城では急いで触れを出し、『恋の妙薬』を持っている者にそれを差し出すように命じた。
蘇摩の報告に寄れば、薬師たちが調べた結果は『恋の妙薬』のどれにも似たような成分が入っていたという。
麻酔に近い効き目を持ち、飲めばぼんやりとするかわずかな眠気を感じるようなものらしい。それを麦の粉と一緒に挽き、同じく細かに挽いた微量の白砂糖が混ぜられていた。
「三度に分けて飲ませる、というのは薬の効きすぎを考慮したものと思われます。
実際にはまじない程度のものだと思われていたようですし、古くから媚薬だと信じられていた薬草の粉末なども混ぜられています。
買う時にためしに舐めてみたもおり、皆そのように危険なものだとは思っていませんでした」
「では黒鋼を狙ってのことではなく偶発的におこってしまった事故、ということでよろしいのですね」
蘇摩の報告に姫巫女はほっと落ち着いたような顔をするが、忠実な忍の顔は晴れない。
「そうとも、はっきりは言えないのです…」
「どういうことです」
帝の声は硬い。
「黒鋼に薬を飲ませた薬師本人は、予想もしない機会に慌てて、定められた量よりも多く混ぜてしまった、と申しています。たしかに、手が滑ったのか壺の中身のほとんどを薬湯に入れてしまったようで、残りは少なかった…。ですが、それでも…。
他から集めさせた物に比べて効き目が強すぎるのです。誰かが故意に狙っていたとしか思えぬように」
帝と姫巫女の間に緊張が走る。忍の筆頭の命を狙ったとなれば、とても安穏としていられる事態ではない。
「その薬師が実際に関与していた形跡は?」
「おそらく無いと思われます。
何より…黒鋼が倒れたことを本人が一番信じられないようでしたから」
ファイが必死で黒鋼の倒れた体を支えるのを、彼女は呆然と見つめていた。目の前で起こる現実を受け入れられず、血の気を失った蒼白な顔のどこにも偽りや誤魔化しは存在しなかった。
「…心を寄せていたことを利用されたかと」
黒鋼に片恋していた薬師の娘はファイに黒鋼の思い人の存在を尋ねもしたのだ。
それよりもさらに親しい人間には自らの心を打ち明けていたとしても可笑しくはない。少女たちの他愛のない色恋話を咎める者などいるはずもないのだから。
人の噂、というのは駿馬の走る以上の速さで巷間を走る。
黒鋼本人に恨みを持つ者か。あるいは白鷺城の主、日本国の玉座を護る戦力の低下を狙う者か。
いずれかに利用されたにせよ、到底捨て置けはしない。すぐに帝が薬を扱っていた商人の素性をさぐるようにと命じた。
「軽率というには憐れな…」
ぽつりと帝の呟きが零される。
けれど、人の心ばかりはどれだけ望んだとしても思うようになりはしない。
知っていたからこそ愚かだと切り捨てることも出来ず、憐れであった。


一時は意識を無くしはしたものの、黒鋼は倒れた翌日には目を覚ました。
城内の医師の診断を受け、三日後には自分の家に帰ることを許されたのだが、まだ床から出る許可は出ない。
「いつまでも寝付いてられねえだろうが」
「駄目。知世姫からも言われてるんだよ、『後遺症が出てこないとも限りませんから、黒鋼が無茶しないように見張っていてください』って」
「…」
ファイがぴしゃりと遮るのに黒鋼は何も言えない。
同居人の言葉を無視して出歩こうとしようものなら、途端に泣き出しそうに顔を歪めてしまうのに参った。
目の前で倒れてしまったことで、ファイが自分自身を責めているのは想像に難くない。もっと自分が気をつけていれば、と繰り返し後悔しているだろうファイの内心を思えばあまり我を通すことも憚られた。
さすがに粥のような病人食ばかりでは腹が膨れないという訴えは聞き入れられ、少しでも良くなるようにと滋養の高いものが並べられる。
大根飯、干し鰯、、豆腐と椎茸と牛蒡の煮物、蒲鉾とくるみのよせ物、鯉の羹、わかめと生姜の酢和え、粕漬け。
味噌に漬け込んだ牛肉を網で炙ったものまで出てきて少々驚く。値が張り、なかなか簡単に買えるようなものではない。
「天照様が薬餌に、って」
事も無げに言う本人にはたして価値が判っているかどうかは不明だが、ありがたく食べることにした。
黒鋼が箸を口元に運ぶのを見届けて安堵したファイは手を合わせてから自分の箸を取る。
未だにぎこちない箸の使い方だが、少しずつ上達していた。
黒鋼が付きっ切りで教えなくとも、食事時の作法はもう大丈夫だろう。
食事の後に煎じ薬を飲むのだが、ファイは黒鋼が目覚めてから薬を飲ませる時には、必ず自分が先に一口飲む。そんなことはしなくていい、と言っても聞かない。
今まで一つの盃で酒の回し飲みだってしたことがあるというのに、どうにもそれが気になって仕方がないのだ。
既に事の顛末は蘇摩から聞かされていた。
そうと知らずに薬を混ぜた薬師の娘のことを恨む気にはなれない。
たしかに毒を飲まされたのは業腹だが、それに気がつかないでいた自分の落ち度の方がよほど黒鋼には腹立たしい。
だから、ファイが自分を責めるのは筋違いだ。ファイに何一つ、落ち度などない。
むしろ、今の黒鋼の内面を知ったならば、黒鋼の方がファイに責められたって仕方がないだろう。

『死んじゃったら、嫌だ…』
目覚めた自分にそう言って泣きながらしがみついたファイの体温を感じた時にはっきりと分かった。
男だから女だからというのではなく、自分がこの手に抱きたいのはファイだと。

浅ましい欲望だと自らを笑う気にはなれない。体と心と、けして切り離すことの出来ないその両方で、どうしようもなく欲しがっている。
自らに思いを寄せて、薬に頼った娘のことを今更に可哀想だと思った。
叶わない恋に、思いに、身を焦がして、手の届かない悲しさに翻弄されてもそれが叶うとは限らないことを、黒鋼自身正に己が身をもって知ったのだから。
たとえどれだけ真摯な思いを向けられても、それは自分の欲しがっているものではないから。けして手を伸ばすことはないだろう。
真実欲したものであっても自分が手を伸ばして壊すくらいならば。けして触れることはすまいと、密やかに決めた。


黒鋼の体を気遣うファイと視線が合う。その度にへにゃりと表情が崩れて笑顔を覗かせることに内心安堵している。
こうして穏やかに時を過ごせるのならば、自分の心一つと引き換えにしても、何も悔いはしない。



 

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