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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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日本国永住設定長編の続きです。

この二人、今が思春期だと思うんだ…。


では下からどうぞ。








姫巫女からお茶に誘われ書庫を後にしたファイは、一応黒鋼にも所在を告げておこうと忍軍の詰め所へ立ち寄った。
この時間ならこちらだろうとあたりをつけたのだが、生憎とその姿はなく、若い忍二人が何やら膝を突き合わせているのだがファイが覗き込んでいることにすら気がついていない。
仕方がないのでその二人に伝言を頼もうと声をかけた。

「あのー」
「「……っ!!」」
よほど何かに熱中していたと見えて、ファイの声に思いっきり肩をビクつかせて振り返る。
これにはファイも驚いてしまい、右手を上げたままの奇妙な姿勢で固まった。
しばらく微妙な間が流れる。先に我に帰ったのはファイの方だった。
「あの、黒鋼に伝言を頼みたいんですけど…」
「は、はい!」
黒鋼、の名前が恐ろしいのか、こくこくと何度も頷く忍の足元に落ちた紙にファイが気がついた。
「これ落ちてますよ」
先ほど熱中していたものだろうかとしゃがみ込んでひょいと拾い上げる。
ああ!と若い忍のどちらからともなく悲鳴のような声が漏れたのを不思議に思ったファイの手の中で、ぺらりと紙が翻った。
鳥の子色の紙に黒く版で刷られていたのは裸で睦みあう男女の図。

「…春画?だったっけ?」
春画、あるいは枕絵とも言われる男女の交合や女性や稚児の痴態を描写した絵だった。
あわあわと狼狽する忍二人だったが、ファイの手から無理矢理取り返す、という思考は働かないのか口と手を空しくばたつかせるだけだ。
一方のファイはというと、多少興味の方向性が一般的な成人男性と違うようで、細部まで精緻に描きこまれたその技法にひたすら感心していた。
墨色一色の線画のみというと単純で平面的な画と思いそうだが、線の強弱や構図の取り方でこうまで人物や背景の小物にいたるまでを肉感的に表現できるものだとまじまじと見入っている。
だが、本人の視点はどうあれ一見清雅な容貌のファイに男女の交情を題材としたその手の絵をじっくりと見られると、それを見つめている方がいたたまれない気持ちになってくる。忍たちも、普段であれば気のおけない男同士、仲間で悪ふざけのように回し見をするのだが今に限って言えば実に申し訳ない気がしてしょうがない。
さりとて返してくれ、と言い出すのも恥かしい。

慌てふためく忍たちに天が味方したわけではなかろうが、ファイの後ろから手が伸ばされ、件の枕絵を取り上げた。
「何見てんだ」
ファイの頭の上から呆れたような声が降ってくる。細身ながら長身のファイよりも背が高いとなるとそれはごく限られてくる。その中でもこんな風に気安い口をきくのは一人しかいない。
「あ、黒様」
くるりと振り返れば、まさにそこにいたのは尋ね人だった。
枕絵を一瞥して、なんでお前がこんなものを持っているんだとでも視線を寄越す。
「それよく描けてるよねえ。影とかつけてないのにすごく立体的でー、筆でこんなに細かいところまで描けちゃうのー?」
無邪気に感心しているファイとその後ろで硬直している若い忍の姿を見て何となく事情を悟ったのだろう、一つ小さくため息をついた黒鋼は枕絵を若い忍に返してやった。
もちろん、城内におおっぴらに持ち込むもんじゃねえぞ、と釘はさしておいたが。

 

「で、黒様ったらオレには『お前が見るにゃまだ早い』なんて言うんですよー。そりゃ、恥かしげもなく見るものじゃないって後から思ったんですけど」
揚げ菓子をつまみつつ、ファイが軽く膨れて見せた。
蘇摩は詰め所にそんなものを、と渋い顔だが、姫巫女は鈴を転がすように笑った。
「ファイさんが女性を見て好ましい、と思う気持ちと、普通の男の方が女性を見て好ましいと思う気持ちとでは雲泥の差がありますもの」
ファイが本当に純粋な絵心ゆえに技術や技法に興味を惹かれたのだと分かるから、余計に男たちの反応が可笑しいのだ。
かと言って、黒鋼の言うこともあながち間違いではないだろう。
ファイは女性を見て美しい、綺麗、可愛い、そんなことを思いはしてもそれが欲しい、近づきたい、手に入れたい、そんな感情には結びつかないのだ。
異性に限らず何に付け、執着から程遠いのである。
大抵執着がありすぎて厄介ごとというのは起こるものなのだが、執着が無さ過ぎるのも困りものだと、知世は口には出さないが胸の内でそっと考えた。
強さしか求めるものを持たなかった黒鋼が、旅で経た数多の出来事を共有した相手を伴って帰った時には驚くと共に喜びもした。心を預けられる相手が出来たからだと思ったからなのだが、周囲の予想に反して二人は家主と居候、同居人という域から一歩も出ない。かと言って、友人というには二人の間には隠しようのない濃厚な繋がりがどことなく醸し出されて、近しい者になればなるほどこの二人をどう扱えばいいのかと迷うのだ。
互いが互いで変わっていく。
確かな変化を見せつつも、緩やかに過ぎる二人の螺旋が描く先行きが誰にも読めないでいた。

気がつくとファイが手の中の茶器を覗き込むようにじっと見つめている。どこと無く翳りを帯びた顔に何か憂慮があるのだろうかと心配になった。
「ファイさん?」
知世の声にはっと顔を上げたファイの手の中で茶器が揺れ、ぱしゃんとはねた茶が袖を濡らす。
「あ…」
慌てて懐から手巾を出して押し当てる。すぐに拭いたおかげで染みになりそうな様子はない。
ぽんぽん、と軽く叩いて水気を抜いていくファイの手つきは手馴れていた。
ふとした拍子にこの国に馴染んでいる様子が見えて、一番間近にいる黒鋼はどれほど彼の変化を知っているのだろうかと思う。
恐縮するファイを止め、茶を入れ替えさせる。
温くなってしまった茶よりも熱い方が落ち着くのではと思ったからだ。
その効果はあったようで、新しい茶に口をつけたファイはほうっと安堵するような息をついた。
「浮かぬ顔の訳をお聞きしても構いませんか?」
黒鋼と何か揉めたのだろうか、そう思った知世にファイは困ったように眉を下げて笑った。
「いえ、本当は普通の男の人っていうのは女の人に対してもっと貪欲なのが当たり前なんでしょうけど…」
あまりあけすけに言ってしまうのを憚られる内容と相手で、姫巫女にどう伝えたものか、とファイは言葉選びに逡巡する。
「愛おしい、慈しみたい。そんな感情は理解出来ていても、抱き合うとか欲しいとかそんな気持ちが分からなくて」
ファイの知っている愛情、というのは恋愛よりも母親が子にかける愛に近い。
そこにただあるだけで満たされる気持ちを男女の恋情や欲求に繋げて理解しろというのが土台無理な話だった。
「オレの基準が普通の男としての欲求から遠かったから今まで気がつかなかったんですけど…」
少し言いよどむ唇が、悲しげに歪んだ。
「オレの存在が黒鋼の邪魔になっているんじゃないかと思って」
成人した男であればいずれ釣り合いの取れた女性を迎えて所帯を持つ。だが、黒鋼が相手にしているのは専ら商売女ばかりで、いっかなまともな恋愛や縁談というのは耳に入ってこない。
それが自分が黒鋼の家に居座っているからだろうかと不意にファイは思い至ったのだ。
「誰かに何か言われましたか?」
知世の問いかけにファイは緩く首を振って否、と答える。
「でも、施薬院の女の子に聞かれたことがあるんですよー。黒様に決まった女性はいますか、って。
オレとは違って黒様は本人がその気になれば、いくらでもそんな普通の道があるんだ、て思ったら…。
たとえ今はそうでなくても、いずれその時になれば、オレはやっぱり邪魔にしかならないんだと思います」
その物言いがあまりに寂しくて、知世も蘇摩も言葉をかけることさえ咄嗟には出来ない。
現実問題として日本国にやってきて、黒鋼を頼りにする以外は今のファイが生活していくのは難しい。城に客分として迎え入れることも出来なくはないが、そのために必要な名目や厄介ごとをふまえた上で現在は黒鋼が身柄を引き受けているのだから。
けれど、ファイの忘れていることが一つだけあった。
「邪魔になんてなりませんわ」
だって、ファイを連れてくる、と決めたのは当の黒鋼なのだから。
いい加減、意固地で頑固で仕方のない、一途な男が連れてくる、と決めたのだ。余程のことが無ければ、それこそファイが出て行ったほうがファイ自身のためになる、とでもいう事態でもなければ手放すことはしない。そんな確信だけは姫巫女にはあった。
「黒鋼本人にお聞きになりました?自分は邪魔か、と」
まさか、と慌てて否定するファイに姫巫女は微笑んで促す。一度聞いてみたらいい、と。
「なんだか怒られる気がするんですけど…」
そう呟くファイの予想は多分当たっている。そして、そんな風にして怒られる、ということを知っているのも、答えの一端を訊かぬまでも既に知っているからだと微笑んだ。


案の定、ファイの質問に黒鋼は不機嫌そうに「馬鹿かお前は」と吐き捨てた。
「くだらねえことでウジウジとしてんじゃねえ」
軽く頭を小突いてさっさと踵を返す黒鋼をファイは慌てて追う。
無言でずかずかと歩く黒鋼はよほど気分を害したのか、ファイの歩幅を考慮になど入れないほど大股で歩いていく。
ファイはほとんど小走りになりながらその後を追った。
ようやく追いついた黒鋼の袖を掴むことに成功し、どうにか彼の意識を向けることが出来た。
「ごめんなさい、変なこと言って…」
ふん、と黒鋼は鼻を鳴らしたきり何も言わなかったが、今度はファイが走らなくてもすむようにいささかゆったりと歩み出す。
その半歩後ろを歩きながら、ファイも無言だった。
けれど、少なくともさっきよりは黒鋼は怒っていないのだと分かってホッとしていた。

怒らせるのが嫌なのではない。
邪魔になることが怖いのではなく、迷惑になることを恐れているのではなく。
ただ、離れたくないと思ったから。
「あ…」


気がついてしまった。


触れたいのは、この人。


 

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