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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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日本国永住設定長編の続きです。
おかしい、一月で終らせる気満々だったのに!
予想に反してやたらと長くなりました。


拍手ありがとうございます。


では下からどうぞ。








木の匙が動いていない。
茶粥を啜りながら、黒鋼はファイをちらりと見る。
最近の彼はなんだかぼうっとしていることが多く、どこか精彩を欠いていた。
体調が悪いわけでもなければ、何か大きな失敗をしたわけでもない。なのに、気がつけば小さな溜息とどこか遠くを見つめるような目をしている。
そんな時のファイの姿は淡い陽炎のようで、思わず触れるのを躊躇ってしまうのだ。
どうした、と無理に聞き出せば困ったような顔をして答えるのかも知れない。けれど、ファイが自ら言い出さないことを無理に暴くのはどうだとも思う。
旅の最中の自分ならばそうしていただろう。だが、過去に捕らわれ続けていたあの頃とはもう違うのだ。ファイも。自分も。
そう自分に言い聞かせながら、それだけが理由でないのも分かっている。

(らしくねえな…)
例えば、彼が「おはよう」と言う時、「お帰りなさい」と言う時。髪を結い上げようとその手が淡い金色に触れる時。
奇妙な衝動に腕が動きそうになる。
思わず目を奪うような白。
手を伸ばしたい。そんな躊躇をする理由は無いはずだったけれど。
無理に近づけば、何かを壊してしまいそうだった。



 

城への侵入者、魔物。それらを武力でもって倒す忍軍と、医術を仕事とする人間とは密接に結びついている。
特に前線で戦うことの多い黒鋼とともに暮らしているファイは、必要にかられて怪我の治療や薬の知識を覚えていった。
その苦労を知ってか、忍軍の中でも医薬の扱いに長けている蘇摩が、自らが指揮することもある医療部隊やそこに関係する施薬院にファイを紹介したのは自然成り行きだった。
ファイを最初に見た日本国の人間の反応というのは大抵似たようなものなのだが、忍軍や兵軍と違い、人を治すということを仕事とする人間だからだろうか。
顔を出すうちに打ち解ける人間は多くなっていた。
医師、薬師の助手や下働きの人間などは存外若い者が多く、ファイの異なる風貌に忌避よりも興味を持つ人間がほとんどだったおかげもあるのだろう。
中には子どもからようやく抜け出たばかりような年の人間もいた。
魔物との戦いで住まいを無くし、僅かな薬草の知識を頼りに施薬院の門を叩くものも多いのだという。

薬の煎じ方を書き写していたファイに、「休憩しませんか」と声をかけてくれたのに甘えて筆を置く。
「熱心ですね」
白鷺城から少し離れた場所に複数の魔物が現れ、黒鋼の率いる忍軍にも応援の要請があった。
帰ってきた時のために今から化膿止めや血止めの薬の準備をしておこうと、ファイは施薬院の本を借りて写していたのだ。
体を温めるためだろう、ことりと置かれた湯飲みの中では生姜湯が湯気を立ち上らせていた。
一口、口に含んだだけで思わずほっとする。
ファイが休憩に入ったのを見てとったのか、自然と数人が集まり思い思いの姿勢で寛いでいた。
積極的にファイから何かを話すわけではないが、不思議と会話が途切れることは無い。
特に少女の域をようやく抜けたばかりとは言え、集まるのが女性ばかりだとファイが口を挟む隙さえ殆ど無いのだが。
それでも嫌な顔をせずに話を聞いてくれるファイの元へと人の輪が集まるのは当然だったかもしれない。

「恋の妙薬、なんですって」
そう言って恥かしそうに見せてもらったのは小さな壺に入った何の変哲も無い白い粉だった。
くすくすと笑う女の子数人ばかりがやはり似たような小さな壺を持っているところを見ると皆が揃いで買ったらしい。
「これを好きな相手に気づかれないように三度飲ませると思いが通じるのですって」
本当に信じているわけではなさそうだが、恋のまじないが好きなのはどこの世界の女の子も同じようで、ファイにそう語る瞳はきらきらと輝いていた。
きっと好きな人がいるのだろう。
「恋の妙薬かあ。何で出来てるんだろうね?」
さらさらとした白い粉はぱっと見たところ小麦や米の粉と違うようには見えない。
女の子たちが口々に、さあ、と首を傾げたり、買うときに舐めたけど甘かった、などと声をあげる。
紅や布といった小間物を商う商人が売っていたらしい。恋の妙薬とは大層な名だが、実際は気休め程度のちょっとしたまじないごとの遊びなのだろう。
それを大事な宝物のように胸元で握り締める女の子たちはたしかに可愛らしかった。
話の輪には入ってこないが、会話が耳に入っているのだろう。時々こちらの様子を窺うように視線を向ける若者の姿もあって、ファイは案外恋の妙薬の効能というのはこれだろうか、とも思った。
その恋のまじないを中心に、話に花が咲いていたのだが、一人が上役に呼ばれていったのを機に皆各々の仕事に戻っていく。
お邪魔しました、とちょこんと頭を下げていくのを微笑んで見送りながら、ファイも同じようにお疲れ様、と声を返した。
その背にそっと声がかけられる。
「あの…」
「はい?」
振り向いた先にいたのは年のころは十七、八か、つぶらな瞳が可愛らしい栗鼠のような若い娘であった。
ファイは気がつく。彼女は先ごろ、黒鋼に決まった相手はいるのか、と尋ねてきた女の子だった。
僅かに頬を染めて、両手で大事そうに包んでいるのは先ほどの皆と同じような小さな壺。
ぎゅっと心臓が掴まれたような痛みを咄嗟にやり過ごして、ファイは何も気がついていないように微笑んだ。
「どうしたの?オレに何か用があるのかなあ?」
そう言って首を傾げると、相手は一層顔を赤くしてもじもじと俯いてしまった。
そのまま返事を待っていたのだが、相手は何も言えず、そのまま「やっぱりいいです」と逃げるように去っていってしまう。
それはそれは大事そうに、宝物のように持っていた小さな壺。
ファイに、恋の妙薬を黒鋼に飲ませてくれ、そうお願いしたかったのだろう。子供だましのまじないを人に頼むなんて恥かしい、と思ったのかもしれない。


彼女の姿は遠くからではあるけれど、今までに何度か見たことがある。
てきぱきと怪我人の世話をし、明るく気立てのよい娘のようだった。
きっと黒鋼の横に並んでも、似合いの二人に見えるだろう。

「嫌だなあ…」
そんな彼女をほんの少しでも嫌だと思ってしまった。黒鋼の隣に立つまだ見ぬ誰かを嫌だと思ってしまった。
そんなことを考える自分が一番嫌だった。

他愛なくて、無邪気で、まだ苦しみなんて想像もしていない。
そんな恋なら良かった。

 

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