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続きです。
ある意味苦労人忍者の押しかけ嫁的紫の上育成計画な話?
せっかくの休日なのに、笑えない話で、腰痛が再発しました。orz
友人の誘いも断らざるを得なかった。行きたかった…カラオケ…。
今日の仲良しは湿布です。切ない…。
では下からどうぞ。
「お前がちっとも女を受け取らぬから…どうやら特殊な性癖とでも思われたのではないですか?」
「俺に稚児趣味は無え…」
いつになく黒鋼の声に力がないのは、感情が沸点を通り越して脱力してしまったためだ。
珍しいことにぐったりとしている忍者に近づいていいものか、異国の子ども二人は所在無さげに視線を落ち着かなくさせている。
あまりに幼い仕種に、さっさと「いらぬ」と突っぱねて送り返してやるべきだろう。そう誰しもが思った。
「…やっぱり、ファイとユゥイいたら迷惑?」
細い声がおずおずと漏らされる。
小さな体を一層小さくして互いに寄り添う二人に、蘇摩が優しく声をかけた。
「いいえ、そうではありませんよ。
ただ、あなた方はまだ小さいですから、異国で暮らすよりも親元へ帰したほうがいいと思って…。
今どうやってご両親のところに送り届けようかその相談をしているところです」
その言葉を聞いた瞬間、さっと二人の表情が変わった。
揃いの顔を強張らせたかと思うと俯いてしまう。
もしかして両親と死別した、など今の言葉に何か双子を傷つけるような言葉があったろうかと蘇摩は焦った。
だが、次の双子の言葉に座の空気は凍りついた。
「…国に戻ったら、二人とも殺されちゃう」
ふるふると頭を振る子どもをもう一人の子どもが宥めるようにきゅっと抱きしめた。
あまりに物騒な言葉に誰一人として二の句が継げない。
凍りついた座の中で、双子は悲しそうな顔をした。
「あのね、ファイとユゥイの生まれた国は『双子は凶兆』なの」
「双子を殺すと災いが起こるって言い伝えがあってユゥイもファイも魔力があったから、皆それが怖くて今まで殺されなかったんだ」
「でも戦争に負けちゃって、『やっぱり双子は災いだ』って」
「どうせ殺してしまうんだから、駄目で元々で奴隷として使えるか試してみるって」
『女に興味のない変わり者らしいから、もしかしたらお前たち気に入って可愛がってもらえるかもしれないぞ』
下卑たその物言いの全てが理解できたわけでもなかったろうが、もしかしたら、と一縷の希望を持ってファイとユゥイは奴隷として、貢物になることを決めたのだという。
「ここはファイとユゥイの生まれた国じゃないから、もしかしたら双子でもいいのかなって思ったの」
「ご主人様になる人に気に入ってもらえたら、ファイとユゥイも生きてていいのかなって…」
交互にそう言うと、しゅんと項垂れてしまった。
思いもよらぬ身の上に誰も言葉が出てこない。
見目の良い子どもだから、精々貧しい家庭から金銭と引き換えに買われてきたのかと思っていたのだ。
当惑する周囲をよそに双子はきゅっと自分たちの手を握り締めると、顔を上げてはっきりと言った。
「ありがとうございます。え、と本当ならもっと早くファイもユゥイも殺されてたと思うから」
「この国に来るまでは二人で一緒にいられる時間が延びたから、良かったです」
慣れない姿勢だろう正座で、二人は揃って帝と姫巫女の座る上座に頭を下げる。
小さな体で自らに与えられる死を、当然のこととして受け止めるその決意が悲しかった。
俯いていた双子の体が唐突に宙に浮いた。
「「え?」」
黒鋼が猫の仔でも持つように、二人の首根っこを掴んで持ち上げたのだと分かったのは、姫巫女の目の前にとすん、と降ろされてからだった。
ぽかん、と黒鋼を見上げる二人などまるで視界に無いような顔で、黒鋼は姫巫女に言う。
「魔力があるんなら結界張るなりでも治癒術使うなり出来んだろ」
白鷺城では姫巫女を中心に魔物から人里を守るための結界を張る巫女や、魔力を使い医療部隊で怪我の治療にあたるための人間を育成するための機関がある。
当然ながら、その長たるは姫巫女であり、それを許すのは帝であった。
思いもよらぬ忍の行動に姫巫女が驚きに軽く目を見開く。そして次の瞬間には花のように微笑んだ。
「そう、ですわね。
生まれながらに強力な魔力を持つ者は希です。
けれど、お二人からは強い魔力を感じますから、これからこの国で私たちを助けてくださると嬉しいですわ」
「いいの…?」
「ファイも?ユゥイも?二人とも?」
「はい、もちろんですわ」
目線を合わせてそう言った姫巫女に、双子は何度もこくこくと頷いた。予想外の出来事と喜びに頭がまだ上手く反応しないらしい。
これで肩の荷は下りたとばかりに、退出しようとした黒鋼を帝が留める。
「お待ちなさい、どこへ行く気ですか」
「どこって…帰るに決まってんだろうが」
当たり前だろうという黒鋼に、帝は大仰に息をついてみせた。
少々芝居がかっているのは黒鋼をからかう時の常套手段だ。
「大事なことを忘れてはいませんか?」
「は?」
黒鋼には思い当たる節は一切無い。これ以上何かあるとも思えない。
そんな黒鋼をまるで聞き分けの悪い子どもに母親が諭すように、帝は言って聞かせる。
「お前にと贈られ、『お前が』この二人がこの国で生きることを是としたのですよ」
はっきりと強調された帝の言葉に黒鋼がぎょっと目を見張る。引き取ろうなどと、そんなつもりで言ったわけではない。
帝の言葉に気がついたのか、双子が慌てて黒鋼の足元に走り寄ると、両側からその足にひしとしがみ付いた。
双子にとってみれば命の恩人なのだ。絶対絶対離れたくないと全身で訴えている。
それを見て帝が嫣然と微笑んだ。
「ちゃんと連れて帰っておあげなさいね」
「おい!俺はそんなつもりで言ったわけじゃねえ!」
思わず荒げた黒鋼の大声に、双子がびくりと震える。
「やっぱり…ファイとユゥイのこといらないの…?」
「いらないんだ…。捨てられちゃうんだ…」
「っ!」
泣く子には勝てない。何よりもあれで案外黒鋼は面倒見のいいところがあり、庇護欲も責任感も強い。
いずれ折れるだろう忍者が往生際悪く足掻くのを、姫巫女は微笑ましげに見つめていた。