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区切り上今回少々短いです。散々お待たせしてごめんなさい~。
でも今回も予定通りのところまで進んでいない…です。
拍手&メッセージありがとうございます。
では下からどうぞ~。
瞼の裏側に白い光が差し込む。
ああ、カーテンを閉め忘れてしまったのだろうか、とぼんやり眠りの淵を彷徨う意識の隅で考えた。
閉めなければ、と思いながらもう朝だからいいではないか、と怠惰に身を横たえることを良しとする自分もいる。
好都合なことに体は背中から抱きしめられていて動けそうにないのだし、何も無理に起き上がることはないだろう。そう都合の良い言い訳を理由に結論づけた。
数瞬の後。ファイは違和感にぱちりと目を見開く。
「…」
背後から誰かに抱きこまれている。それなりに背の高いファイをすっぽりと覆ってしまうほど体格の良い人間だ。
背中に感じる体温が心地よく、今の今まで熟睡していた。あり得ないことに。
恋人と別れてから、否、別れる前だってあまりまともとは言えないような生活を送っていたのだ。アルコールとセックスは手っ取り早く眠りに落ちるための手段で、眠りは僅かばかり体力を回復と外界から遠ざかる手段でしかなかった。
触れ合いや、安らぎや。そんな、本当に必要なものが。一番遠かったのだ。
昨夜のことはぼんやりとだが覚えていた。店で酔って、空虚さを埋めるために誰かに慰めてもらいたくて、一番好きな人の面影に手を伸ばした。
いっそのこと彼の面影ごとぐちゃぐちゃに壊してくれれば良かったのに。無視して、一切の希望も与えられなければ良かったのに。
ただ寄り添うだけの優しさが、ファイを掻き乱した。
ぼんやりとそう考えていると、鼻の奥がつんと痛んだ。体の奥の涙の気配に、ファイは慌ててそれを遠ざけようと眠気を振り払う。
そろそろ起き上がりたいな、と考えて自分が未だに男に抱きしめられたままでいることに気がつく。
がっちりとした逞しい腕が、ファイの腹の前に回されている。なんだか抱き枕になったような気分だった。
声をかけた方がいいのか、それとも起さないようにした方がいいのか。そう考えているうちに、ファイが目覚めた気配を感じ取ったのか、背後の体がごそりと動いた。
寝起きらしい小さな呻き声のような吐息が耳を掠めた瞬間、ファイの心臓は爆発してその動きを止めていしまうのではないかと思うくらいに大きく跳ねた。
(嘘だ…)
まさか。
ぐるぐると頭の中をそればかりが巡る。
振り返って確認するのが恐ろしい。
断罪の時を待つ罪人のように、ファイはただその瞬間が訪れるのを身を竦めて待った。
「…起きてたのか」
寝起きの低く掠れた声。耳元をくすぐる吐息。何度も抱きしめて、慰めてくれた腕。
ああ、やはり。
ファイはきつく目を閉じる。
昨夜、自分を慰めるように落ち着かせてくれた命の音は、今もファイを包み込んでいる。
守るように、抱きしめてくれている体温も、全て彼のものだ。
黒鋼だった。
優しくて、何度も愚かな行為を繰り返すファイを見捨てないで、傍にいてくれた。
いつだって優しくて、優しくて。
残酷で。
それでも、好きでどうしようもない人。