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二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
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日本国永住設定長編の続きです。


以前、とあるサイト管理人様と日本国設定を書くときに食べ物とか困りますよね、というお話をちょっとしたことがあったのですが、日本国を書く際に困るのはあまり日常を自分たちの時代感覚で捕らえてはいけない、ということです。
だって文明的に写真なんかなさそうだし、ソースとかバターとか使えないし、白砂糖とか貴重品だろうなんて思ったり。
冷蔵庫ないから肉や魚の保存方法は限られているのだけれど、今の自分たちの感覚ではうっかり忘れがちになって困ります。

ご飯とか食材とか、調べられる範囲で冷蔵庫も冷凍庫もなかった時代の料理のことを調べてます。
二次創作でファンタジーだからとあまり自由すぎるのもリアリティなくなるのが嫌だな、と思って。
個人的なこだわりすぎるのは百も承知…。
(あ、ファイは食の黒船として珍しいお菓子を作って知世姫と帝に重宝されると良いと思います)

と悩んでいたら、最近親父殿の蔵書でいいものを発見いたしました。
「歴史読本日本たべもの百科」
まさか我が家にこんなお役立ちがあるとは…。
…間違いなく私のオタクの血は父から受け継いだと思います。
(親父殿は日本史オタク、弟は鎌倉仏教マニア)

まあ、なんにせよ勉強するっていうのはいいことだよね、と思いました。
学生時代は気がつかなかったけれど。
(その勉強とやらが偏りすぎていることからは目を逸らす)



では下からどうぞ。



 









ぐらぐらと世界が揺れた。
腕の中の黒鋼の体は尋常ではない。嫌な汗が噴出し呼吸することすら辛そうで、なのにファイの体を支えにして倒れることを拒んでいる。
「…っ誰か!蘇摩さんをっ!!」
ほとんど悲鳴に近い声だった。


騒ぎを聞きつけた蘇摩が駆けつけるまでにさして時間は要さなかった。
一目黒鋼を見て顔色を変える彼女にファイは必死で目で縋る。
蘇摩の指図ですぐに解毒薬と寝床とが用意される。小さな丸薬を白湯で流し込んだものの蘇摩の険しい顔はまだ晴れない。予断を許さない状況なのだとファイも察した。
急ぎで別室へと移されたものの、未だに状況の飲み込めていない薬師や負傷者の困惑と猜疑の目がファイへと集められた。
けれど、ファイはそれに構っている余裕などありはしない。

脳裏に今も焼きついている。
ごとりと落ちた腕の音。
血の雨としか呼べぬ、滴り落ちる赤。
歪んだ世界の向こう。
彼の血を吸い取り、黒く淀んだ土。
倒れ伏して動かない体。

何も。
何も出来なかった自分は、ただ泣いて、叫んで、祈った。

胃の腑がぞっと冷える。
また、何も出来ずに待つことしか出来ないのかと。
歯がゆさに唇をかみ締めているうちに切れたものか、うっすらと血の味を口中で感じた。

指示を出し検分を行う蘇摩が見咎め、そっと懐紙をファイに手渡す。それを受け取ろうとした手が震えていることに今まで気がついてもいなかった。
痛ましげにファイを見つめた蘇摩だったが、すぐに忍としての顔に戻る。
床に転がされたままだった茶碗はかろうじて割れておらず、どろりとした薬湯がまだ底に僅かに残っていた。
「ファイさん、黒鋼が飲んでいたのはこれですか?」
蘇摩の問いかけにのろのろと顔を頷かせる。
「これを作ったのは誰です?」
蘇摩の声に我に返ったのか、若い薬師の娘が反応した。
おそるおそる前に出る彼女に蘇摩が何事かを聴いている。
確か彼女が幾つかの薬湯を盆に載せてきたのだった、とファイがぼんやりと思った瞬間に別室から凄まじい音がする。
ファイと蘇摩がはっと振り返ると、黒鋼を運んだ房室の戸から誰かが転がり出るようにして出てきた。
立つことすら覚束ないのか、這う這うのていで一刻も早く扉から離れたいともがく姿を今はとても笑う気にはなれない。
薬師や治療の人間が数人ほど黒鋼の傍についていたはずだ。一体何事か、とファイは急いで駆け寄る。
扉をがらりと勢いのままに開け、足を踏み込もうとしたファイは膝をついた黒鋼が薬師の喉元を押さえつけているのを見た。
「黒鋼!いけない!」
そのままでは相手の喉を潰しかねない。咄嗟にファイが制止の声をあげる。
その声が聞こえたのか、新たな進入者への本能的な警戒か一瞬黒鋼の腕の力が弛んだ隙に薬師がその手からかろうじて逃げ出した。
押さえつけていたのが片腕だけだったのが良かったにせよ、その首にくっきりと残る痕を見て黒鋼が一切の手加減をしていないのだと分かった。
薬師は息も絶え絶えに、意識が混濁しかけた黒鋼に解毒の薬を飲ませようとしたところいきなり暴れたのだと説明する。
弾き飛ばされたのか、解毒のための薬が入っていた茶碗は割れて中身は床に飛び散っている。
「意識がおぼつかない忍に声をかけず近づくのは危険だと言ってあるでしょう!」
蘇摩が声を荒げるのは滅多にない。
忍や兵ら戦闘を生業とし、それが常である人間にとっては自らに悟られないように物音や気配を抑えて近づく者は敵だという認識がある。
そのため兵や忍は見方同士の相討ちを避けるために、就寝中の相手であっても声をかけるか自らの敵意のない気配を示してから相手に近づく。
それは思考とは関係なく、戦いの場で生き延びるために見に染み付いた手段であり反応であることを知っているからなのだ。
まして今の黒鋼は薬の影響か意識が半ば朦朧とし、それらを抑えるための理性を働かせることが出来ない。
その一方で己の身を護るための自己防衛の本能が剥き出しになり、手負いの獣のような黒鋼の様子に恐れをなして誰も近づけない。
いっそ完全に意識を失っていれば治療も容易いのだが、うっすらと外界を認識してはいてもそれらが自分に害なす相手であるのか、無害な相手であるのか、分からないという警戒心が意識を手放すことすらも拒ませているのだろう。
早く薬を飲ませなければいけないのに…、と蘇摩の声は焦燥を隠せない。
だが、この上薬を飲ませるのは困難だ。いくら意識が朧だとはいっても、忍軍屈指の忍である黒鋼が相手では今の薬師のように押さえられてしまう。下手をすればその力まかせの抗いに命だって落としかねない。
逡巡する薬師たちが悪いわけでないのはわかっていてもファイは苛立ちを隠せなかった。
「黒鋼」
喉がからからで上手く言葉が紡げない。それでも、黒鋼の耳に届くようにファイは言葉を続ける。
「声、聞こえてる?」
ゆっくりと踏み出した足に返る反応はない。
見ていた者が一様にぎょっとした。あまりにも無謀だと思ったのだ。
おそらくは今声をかけているのがファイだとも分かっていないのだろう。それでも、黒鋼に害をなす存在でないのだと分からせなければ、治療も出来ない。
「黒鋼…!」
聞こえていないのか、近づいたファイの腕をぎり、とその手が締め上げる。
その膂力に悲鳴を上げそうになるが、黒鋼はそれ以上抵抗しようとはしない。
よほど苦しいのだろう、額には汗が玉となり浮いている。眉間に寄せられた皺はいつもよりも深く、きつく眇められた赤い瞳が焦点を合わせられずに揺らぐ。
「オレの声、分かる?ね、大丈夫だから…」
これ以上は暴れないだろうと蘇摩が薬を、と薬湯をいれた湯呑みを慌てて運んだ。
「黒鋼、大丈夫だから。お願いだから薬を飲んで…」
だが、薬湯を口元に運んでも引き結んだ唇はピクリとも動かない。
「…お願いだからっ」
泣きそうな声で呼びかけても何の反応もない。苦しげな息に、気ばかりが逸る。
限界に近いのか、かろうじて膝を突いて保っていた姿勢からずるりと体が崩れそうになった。
慌てて湯呑みを置き、震えるもう片方の手で少しでも楽な姿勢に、と黒鋼の肩を支えるのに抗いはなく、ほんの少しだけファイは安堵する。
ゆっくりと布団にその体を横にしても黒鋼の警戒は解かれないのか、ファイの腕を掴んだままだった。
どうすれば、と焦るばかりの頭でファイは考えを巡らせる。
そうして薬湯を一口、自分で含んで嚥下すると、黒鋼の耳元で彼に聞こえるようにと必死で声をかけた。
「大丈夫だよ。
これは君の体に害のあるものじゃないから、だから…飲んで」
お願いだから、と念じながら更に一口、口に含むと黒鋼の唇に自らのそれを重ねた。
一瞬ぐっと奥歯を噛み締めたのが分かって、駄目かと絶望しそうになる。
けれど、かすかにではあるが黒鋼が口を開いた。噎せないようにと少しずつ、薬湯を黒鋼の口腔に流し込む。震えて思うようには動かない唇からは飲みきれなかった液体が零れたけれど、僅かに黒鋼の喉が上下して薬を飲んだのだと分かった。
すぐにまた一口、口移しで薬湯を与える。喉が潤ったためか警戒を解いたのか、今度は最初よりもすんなりと黒鋼はファイの唇を受け入れた。
零れた薬湯が襟を汚すのも気にも留めず、何度も何度もファイは黒鋼に薬湯を飲ませる。

死なないで。
ただそれだけだった。


どれだけそうしていたのかも分からない。長い時間であったのか、短かったのか。
薬を飲み干した黒鋼がようやく瞼を閉ざし、その呼吸が安らいだものへと変わるまでファイはじっと傍にいた。
蘇摩に「もう大丈夫ですよ」と教えられて、ようやく我に返る。
その時まで黒鋼が自分の腕を掴んだままでいたのだと気がついた。くっきりと指の形に痣が残っていた。眠っている人間とは思えない力で握り締められていた腕の痛みにさえも、今まで気がついていなかったのだ。
黒鋼の腕を布団に入れてやりながら、ようやく、ファイの瞳から涙が零れた。

この人の命以外に、もう望みなどない。


 

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