忍者ブログ
二次創作中心ブログ。 ただいまの取り扱いは忍者×魔術師。 妄想と現実は違う、ということを理解した上で二次創作を楽しめる方はどうぞ。 同人、女性向け等の単語に嫌悪を感じる方は回れ右。 18歳未満は閲覧不可。 無断転載禁。
[535]  [534]  [533]  [532]  [531]  [530]  [529]  [528]  [527]  [526]  [525
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

日本国永住設定長編の続きです。

繰り返し言うと、この話は本来五話で終らせる予定でした。今十話、まだ終ってませんorz
計画性ない自分に泣けてきます…。

拍手ありがとうございます。
更新の励みです。


では下からどうぞ~。

 









半月もすると黒鋼の体はすっかり回復した。
目覚めて数日は手足の末端にかすかな痺れを感じることもあったが、今はそれもない。
城勤めの医師からお墨付きを貰い、忍としての任務に復帰するまで数日ほどとなった。
相変わらずファイは時間も材料もどう工面したものか、普段には過ぎた食事を毎日用意している。
身分の上下に関係なく日本国の食事は一日に二回ほどだ。その間に間食をとる習慣はあるが、一日のうちにきっちりと食事と呼ばれるものを三食とるのは黒鋼のように戦闘を生業としていたり何がしか体力を使う仕事に従事しているものが多い。
特に病中病後ともなれば気を使うことも多い。回数が多くなる分、それを用意するファイの負担は否めなかった。
そんな負担からもこれで少しは解放させてやれるだろうか。そんな安堵も黒鋼にはあった。
数日に一度は城から忍軍が帝や月読の言付けを携えてやってくる。
怪しげな薬を捌いていた商人とやらは既に捕らえられ、今はその背後にどのような繋がりが存在するのか詮議しているという。
扱われたのが薬物ということもあり、蘇摩の指揮によって調査が行われているため、黒鋼は心配はしていない。専らの心配はあまり長引くようであれば、彼女をことさらに気に入りにしている帝の機嫌がよろしくはないだろうということくらいか。
本人の与り知らぬうちに今回の事態を引き起こした薬師の娘は城から暇を出されたのだと、誰ともなしに聞いた。
夕餉を口に運びながら、そんな話をした。
娘本人に何の罪も無かろうが、日本国の帝率いる忍軍、しかもその筆頭にも数えられる忍を害したとあっては無罪放免というわけにもいかない。
おそらくは城に所縁のある人間の下に引き取られるのだろう。
口封じも兼ねたその処置は良くて一生飼い殺しか、悪ければ人知れず存在ごと葬られることになる。無論白鷺城の城主姉妹がそのような真似をするようなことはないのだが。
それを聞いてファイは眉宇を顰める。こうして顔を曇らせたいわけではないのだが、黒鋼が倒れてから沈んだ顔をすることが少なくない。
「どうか、怒らないであげてね」
唐突にファイがそんなことを言う。
何を、と聞く前に慌てたようにファイが己の言を打ち消す。
「ごめんなさい、大変な目にあったのは黒様なのに…」
ぐっと言葉を、己の言いたいことを飲み込んでしまうのでは旅の間には良くあったことで。この地に導いてからはそのような悪癖も随分と鳴りを潜めていたのだが、と黒鋼は歯痒く思う。
言いたいことがあるのならば言えばいいのだ。間違っていても、駄目なことでも。
ファイが「伝えよう」と思ったのが大事なことなのだから。
そう促せばぎゅっと余計に眉が顰められる。
「あの娘ね、黒鋼のことが好きだったんだよ…。
こんなことになるなんて思ってなくて、少しでも自分の気持ちが伝わればいいな、って…それだけだったと思うんだ。
だから、好きだって思ったのはきっと嘘じゃないと思うから…。それを怒らないであげて」
悲しそうに、そんなことを言う。
二人の箸を持つ手は完全に止まっていた。
黒鋼が気になったのは娘の気持ちではない。
何故、それを伝えようとしたファイが、そんなに切なげな顔をするのかが分からない。
否、もし明確な理由があったとしても分かりたくない。
「別にそんなこと、気にしちゃいねえよ」
ファイがホッとしたように笑った。それすらもどこか儚い。
聞きたくない、そう思った心とは裏腹に黒鋼の口は勝手に問うていた。
「なんでお前がそんなことを気にする」
びくりと、ファイの顔が強張った。
まさか、と思いながらそれが限りなく確信に近いであろうことが黒鋼を苛立たせる。
背中が冷え冷えとする一方で、腸が煮えくり返りそうなほどに腹立たしい。そのどれもこれも黒鋼の勝手な思いに過ぎないというのに。
それを理解していながら。それでも。
「誰か、好きな相手でも出来たのか」
認めたくはなかった。

ファイの凍りついたような顔が何よりも雄弁に答えを黒鋼に教えていた。

「もし…お前にそう思う相手がいて、そいつと添い遂げたいと思うなら好きにすればいい。
大方恩だか義理だか気にしてんだろうが、俺のことは気にすんな」
心がこんなに悲鳴をあげたことなど無かった。
心臓の軋むような苦しみを感じながら、そう言った黒鋼にファイは激しく頭を振った。
「…っそんな人、いない!」
言葉がどんな否定をしても、声も表情も心を裏切りはしなかった。
好きな人なんていない。力なく呟くファイの声を聞きながら、黒鋼は逃げるように箸を置いて部屋を出た。




恋をした。
花が落ちていくように、いつの間にか。
恋をした。
自分の思った相手は。

恋をしていた。


 

しんと寝床は静まり返っていた。
ファイは先に布団を被っていた黒鋼を起こさないようにそっと障子を開ける。
数日降り続いた雪は足首を覆うほど降り積もり、密やかな自分の足音さえも吸い込んでしまうようだった。
この国の雪の景色は何もかも覆い尽くして飲み込んでしまうような故郷の荒々しい雪と違い、人の営みの温もりを感じられるから好きだった。
一面の銀世界に落とされる月の光が、夜だということを忘れさせるほどに明るく照り返し、ぼんやりと全てのものの形を浮かび上がらせる。
まるで見捨てられたように黒鋼が部屋を出て行ってしまってから、ファイはひっそりと泣いた。
知られてはいけなかった。知られてしまえば、傍にいることさえ出来なくなってしまう。
「好きにすればいい」
そんな言葉がファイをどれだけ突き放したか、黒鋼は知るはずもない。それは彼の不器用な優しさだと分かっていた。
優しくて、だから伝えてはいけない思いだというのに、黒鋼はファイが誰かに恋したことを気づいてしまった。知られてしまった。
近づいてはいけないのに、離れることも出来ない。
黒鋼の布団と少し離されて敷かれたファイの寝床はひんやりと冷たい。
そこに身を横たえることはせず、静かに座って既に眠ったであろう黒鋼の顔を見る。
今、ファイに許されていることはこうして寝顔をそっと見ることだけ。
毒の影響はないのか。傷は痛まないか。寝顔のどこにも苦痛の無いことを確認して、そうして眠りにつくのだ。
けして触れない。
黒鋼の命がそこにある。それだけを心に刻み込んで、それで満足なのだと自分に言い聞かせた。
雪が月を反射していつもよりもはっきりと、何もかもがあらわになる。
触れないまでも無意識にもう少しだけ、もう少しだけと距離を詰めた。そっと吐息を押し殺して黒鋼の顔を覗き込む。
瞼を閉ざした彼の精悍な顔立ちを見つめ、眠りにつくまで繰り返し繰り返しそれを思い描くのだ。
破れてしまいそうな心臓と気を抜けば嗚咽を漏らしそうになる喉とを叱咤し、焼き付けるように見つめる。
寒さも何もかもをファイは忘れていた。
けれど体はそうというわけにもいかない。
いい加減立ち上がろうとした瞬間に、冷たい空気に固まってしまった足がうまく動かず僅かに余計な力がこめられる。ぎし、と板張りの床が鳴った。
元々気配に敏い黒鋼だった。ファイの気配に目覚めなかったのは、黒鋼自身知らぬ間にその気配を当然のものとしていたからだ。すぐにその瞳が開けられる。
ぺたんと座り込んでいたファイはぼんやりとそれを見つめ返した。
赤い瞳を美しいと思った。

視線が絡まる。
起こしてしまったことを後悔しながら、ファイは黒鋼を見つめた。
積もった雪と月明かりに、何もかもが曝け出された夜だった。
切なげに黒鋼を見つめるファイの表情の何もかもが黒鋼の赤い瞳に映し出されている。

黒鋼の指が、冷えきったファイの肩に伸ばされた。


 

PR
01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28
最新記事
ブログ内検索
管理人
HN:
仮名
性別:
女性
趣味:
読書
自己紹介:
成人。
みかんの国出身。
エネルギー源は酒。
忍者ブログ [PR]